レイドリフト・ドラゴンメイド第21話 シルエットは天使と悪魔
第二次世界大戦のアメリカ軍から始まる、軍用4輪駆動車の代名詞、ジープそっくりに見える。
その窓から、白旗を持った手が伸びてた。
【撃たないでください! 我々は、降伏しに来ました! 】
ドアが開き、白旗を持った地域防衛隊員が降りてきた。
車の幌が開き、次々に人が降りてくる。
本当にすし詰めだったのだ。
降りる人々は、もう20人近くになっていた。
【開けて! 開けてください! 】
そして全身に大粒の雨を浴びながら、ゲートの鎖を外そうとしている。
【屋上に見えるの、フーリヤでしょ!?
君たちなら、助けてくれるって、言ってたよね!? 】
そう言った少年の顔に、ドディは見覚えがあった。
共にバスケをした覚えもある。
【ああ! そうだ!
それも俺たちの任務だ! 】
助けをこう声にそう答えると、ドディはレミを向いた。
【君はここで警戒してろ。
状況が変わったら知らせてくれ】
レミはタブレットを床に置き、弓を構えた。
【分かりました】
彼女の声に、緊張が走る。
レミの体半分を構成するのは、地球の木ではない。
彼女の生まれ育った異世界にのみ生い茂り、至宝ともされる、聖樹。
聖樹は、その中で自己組織化と自己増殖、自己進化する概念を集める。
その聖樹と融合した彼女は、そこからくる膨大な概念を、自在に操ることができる。
膨大な概念を武器として発動する武器が、同じ聖樹から切り出された弓、神来(ジンライ)だ。
レミが準備を終えるのを見て、ドディは外へ出て行った。
【俺の顔は覚えてるな!
ドディ・ルーミーだよ!
武器は、川に投げ捨てるんだ! 】
その声にしたがい、チェ連人達は振り向いて川に武器を捨て始めた。
【隠して持ち込もうとしても無駄だぞ!
知っての通り、ハッケは何でもお見通しだ!
捨てたら、ゲートを開けて――】
【ドディ――!! 敵襲です!! 】
レミの叫び。
たちまち、天に赤い光が二つ煌めいた。
『迫撃砲だ! 大丈夫!
あれなら撃ち落せる! 』
屋上からの機械音声。
フーリヤだ。
雨の中に、明るく光る線が見える。
フーリヤの背中にある、2連レーザー砲塔。
巨大な鳥のくちばしが、天を向いた。
フーリヤの頭。
そこには小型レーザーバルカン。
雨をプラズマ化させる高温が、続く追撃を食い止めようとする。
『やっぱだめだ。雨でレーザーが拡散されてる』
(だと思った)
そんなことは気にせず、ドディはゲートを戒める鎖をつかんだ。
外では、あせる叫びが聞こえる。
ドディの持つ能力の一つ。
全身から放たれるガスバーナーの様な炎。
手のひらからの炎で、たちまち鎖は赤く焼け切れた。
【さあ! 早く入って! 】
それに従い、人々が流れ込む。
それをよけながら、ドディは下流を見てみた。
未だ燃え盛る戦火。
主戦場だからだ。
その火の中から、3つの人影が近づいてくる。
だが、なにかおかしい。
人影と、その横に立つ家の窓。
二つの遠近感が一致しない。
【人型ロボットか! 】
人影から、連射する銃声が折り重なって響いた。
人の持つ自動小銃とは違う、より大きな、大口径の銃。
その銃弾はたちまち無人のジープを貫き、鉄片と炎をまき散らした。
【あいつら、宇宙人から奪った虎の子の兵器まで持ち出したんだ! 】
塀の影でバサバサッと、風を押しのける音がした。
音を鳴らしたのは、ドディの背中から現れた2枚の翼。
翼のある鹿は、アラブでは強い生命力を意味する。
そして、人間そっくりの手のひらを地面に向ける。
そこから放たれるのは、ジェットエンジンを思わせる青白いまっすぐな炎。
それを、蹄のある長くしなやかなシカの足がさらに加速させる。
はずだった。
だが。
【毛が逆立ってる?
確実に帰れる道があるから、もう戦いたくないと思ってるのか?!
俺の心が?!
何で?! こんな時にビビってるんじゃねえよ! 】
一方のレミは、弾丸にもひるむことなく立ち、天に向かって次々に弓を射ていた。
その弓の軌道は、変身すると強化されるドディの五感によって、正確にとらえられていた。
矢はAの字の様に空中で大きく軌道を変えると、迫る人型ロボットの銃を正確に射ぬいた。
銃は、人間そっくりの手に握られていた。
それは銃弾の火薬の誘爆により、粉々に砕け散った。
それでも、その足は前進を止めていない。
【どうしたんです!? 】
レミの心配する声。
彼女の姿は、人生の長い月日を武門にささげた者だけが持つ、弱さや穢れを寄せ付けないたくましさ。
まさに武人の気配。
その姿に、ドディは思い出すことがあった。
【そう言えば、こいつも知ってるんだよな。
あの火を】
ドディを心配しながらも、レミの弓矢は次々に放たれていく。
侮れぬ兵器の存在を知った3機のロボットは、背中のブースターからジェットを放ち、真上とななめ左右の3方へ飛んだ。
そして、短い飛行の後、浄水場へ迫る。
【……くそっ!
負けるか! 】
ドディは叱咤するように足をたたいた。
そして、今度こそ手のひらからジェットを放つ。
たちまちドディは嵐の空へ駆けあがった。
雨粒がまるで石つぶてのように全身を打つ。
銃弾で撃たれても平気な毛皮越しでも、それは痛い。
飛行の衝撃で、空中のロボットは大きくバランスを崩した。
街を見下ろす。
一時よりは燃え上がる火は少なくなっていた。
それでも、変身したドディの五感は、はっきり見える。
街頭も、街灯りもない。
送電線が切られたからだ。
チェ連の手によって。
また、山の要塞は火山のように炎を高々と上げている。
その有様に、痛ましさを覚える。
空には無数の宇宙船の残骸が受ける、日光の白い光。
そして、スーパーディスパイズが大気圏突入したことを示す、火球。
【レミは、あるファンタジーな異世界の政治家の娘だ。
その異世界にも名前はあるが、今は話させないでくれ。
……憎しみや野心をもって攻め込む奴がいるかもしれない。そうレミは心配している。
そのくらい政治が不安定な世界なんだ。
その世界へ、高校時代のボルケーナが夏休みの一人旅でやって来た。
本当にあてもなく、概念宇宙の導くまま旅したことがあったんだ。
とても広い草原で2人は出会い、遊んだそうだ。
だが、それは罠だった】
続いて、浄水場建屋を向いた。
コンクリート三階建の、幅のある建物だ。
その屋上で働くフーリヤが見えた。
その姿を一言で言えば、大鴉。
広げた翼は30メートルにわたるが、いまは建屋に半分以上おしこめている。
その下でうごめくのは、本来鳥の足がありそうな場所から生えた、無数の触手だ。
雨が、フーリヤの黒い表面を濡らす。
本来、無機質なはずの機械生命体の肌が、修理を進めるたびに生物的にうごめいている。
【レミの父親とその一派は、ボルケーナを恐れ、攻撃を決定していた。
国には内緒でな。
発射されたのは、戦略級魔法。核爆弾みたいな魔法だそうだ。
それは、ボルケーナの真上で爆発した。
作品名:レイドリフト・ドラゴンメイド第21話 シルエットは天使と悪魔 作家名:リューガ