年賀 非道なブティック店長
さて、その年の大みそかのことです。小柴さんが年内最後の仕事を終わらせ、
「では店長、良い新年をお迎えください」
と言って帰りました。
櫻澤店長は、部下より遅く仕事場を後にしました。
彼女の住むマンションに着くと、低く、威圧的な女性の声が聞こえてきました。それは、2年前に死んだはずの前任の店長、黒羽沙希の声でした。
「櫻澤さん、櫻澤さんでしょ?」
「く、黒羽店長!?店長は、2年も前に死んだのに…」
櫻澤音々は、急いで自分の部屋のある3階に向かいました。
櫻澤は素早く鍵を開け、すぐにドアを閉め、鍵も掛けました。しかし、黒羽の幽霊は、突然に櫻澤の目の前に現れました。
壁に寄りかかっておびえる櫻澤。
「あたしは生きてたとき、苦しんでいる人に目も心も向けず、自分の美しさと楽しみばかり追い求めてた。だから、この姿見の前から離れることができないの」
黒羽の幽霊は、姿見に映った自分を見たまま言いました。
「今のままだと、あんたもあたしみたいになるわ」
「え、そんなの嫌。どうすればいいの?」
櫻澤が尋ねると、黒羽の幽霊は、姿見とともに足の先から少しずつ消えていました。
「だったら今夜、あなたの所にお正月の僧侶たちがやってくるから、彼らの話をしっかり聞きなさい」
そう言い残すと、黒羽の幽霊は完全に消えました。
作品名:年賀 非道なブティック店長 作家名:藍城 舞美