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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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デス宝くじの当選者!

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「年末の運試しにデス宝くじはいかがですかーー?」

宝くじ売り場の前で足が止まった。

「デス宝くじ?」

「買いますか? ぴたり当たると10億円。
 しかも公共交通機関、食費などなど永久無料パス付き!
 まさに夢だと思いませんか!」

「デスってのは……」

「すべての数字がかすりもしない大外れだと死にます」

さらりと言いやがった。

「まあ、でもその確率ってこの宝くじでは1等と同じ確率なんです。
 そうそうに当たるもんじゃないです。
 で、どうです? 命をかけて、最高の人生を手に入れませんか?」

俺のこれまでの人生なんて……。
仕事は誰からも認められず、恋愛もうまくいかない。
友達もいなければ、後にも先にも残すものなんてない。

「……買います」

今さら、失って惜しい人生じゃなかった。
宝くじを10枚買って家に帰った。

宝くじなんて初めて買うもんだから、まじまじと見つめてみる。

「あ、これがあたり番号か……そうだ!
 もし、同じ番号で当たりが出たらお金も2倍かも!?」

せこい考えが出て、業者に依頼してコピーを作ってもらった。

「宝くじのコピーなんてどうするんです?」

「ふふふ、もしこの中にあたりの番号があったらどうする?
 俺は2倍の金を受け取れるってわけだよ」

「いや、同じ番号の宝くじを同じ人が持って来たら
 コピーだとばれるに決まってるじゃないですか」

「あ……」

億万長者計画、閉幕。
コピー業者に指摘されるまで気付かなかった俺はなんてマヌケ。

宝くじの結果が出るまで残り1ヶ月。

仮にハズレたとしても心残りがないように、
残りの人生をしっかりと生きていくことにしよう。
どうせろくな人生じゃないけど。

「先輩、最近すごく頑張りますね」

「あ、そう? まぁ……人間、いつ死ぬかわからないし」

「うちの課の女の子たちも、最近の先輩カッコイイって言ってました」

「え!? あ、お、お世辞じゃないかなーー……あは、あはは」

顔のにやにやが止まらなかった。
今までこんなことなかったのに。

人間、文字通りの"死に物狂い"でやると評価されるものなのか。

「先輩、これから飲み行きませんか? 話聞かせてください」

「お……おお! おおお!!」

入社して苦節10年。
こんなに誰かに頼りにされる日が来るなんて!


宝くじを買ってから数週間は本当にバラ色だった。

仕事も俺の頑張りが評価されて給料アップ。
友達も増えて、彼女もできた。
引きこもりがちだった休日もアクティブになり趣味も増えた。

「ああ、人生はなんて楽しいんだ!」

今までの人生は灰色だった。
ここに来て急に色鮮やかに俺を迎え入れる。
このままこんな生活がずっと続けばいいのに。

受かれ気分でカレンダーを見ると、冷汗が流れた。

「デス宝くじの結果まで……あと1日!?」

急に足の震えが止まらない。
まるで死刑台への階段を上る囚人だ。

もう失うものなどなにもない、とヤケになって買ったのに
死を覚悟したとたんに人生が好転しはじめた。

いまじゃこの生活を何としても守りたい。手放したくない。

「し、死にたくない……!!」

怖くなったので宝くじの原本を持って売り場に走った。

「あの! 宝くじのキャンセルをしたいんですが!」

「え? キャンセル? できませんよ。
 集計は明日、もうあなたの番号も選考対象に含まれてるんですから」

「これを今破ってもですか!?」

「当たりに気付かず捨てちゃう人もいるから、
 購入のときにちゃんと連絡先聞いたじゃないですか。
 破ったところで、通知はあなたのところに行きますよ」

「そんな……」

「とにかく、明日は当選チケット持ってる人の家に向かいます。
 当たりもしてないくせにキャンセルとかやめてください」

もう逃げられない。
明日に俺は死ぬかもしれない。
やっと手に入れた人生の光を失うかもしれない。

「ああ……なんてことをしちゃったんだ……。
 未来は暗いものだとばかり決めつけて……。
 こんなことになるなら……買うんじゃなかった……」

「ぐへへ、兄ちゃん。悩みかい? だったら話聞いてやるよ」

そこにはホームレスが立っていた。

「いや、いい……。人に話すことでもないし」

「そうかぃ、じゃあ、金出しな」

「は?」

「俺っちは"路上話し相手"って商売してるんだ。
 兄ちゃんの話を聞いてやっただろ? だったら料金払ってもらわないと」

「話って……ほんのちょっぴりじゃ……」

反論したくなったが、ぐっと言葉を飲み込んだ。
財布から金を出そうとしたところで、宝くじが目に入った。

「……そうだ。なぁ、今日から明日にかけて俺の家に来ないか?」

「あぁ? 兄ちゃん、何言ってるんだ?
 そりゃ屋根がある場所なら願ったりかなったりだがよぉ」

「実は荷物の受け取りがあるんだけど、家に入れなくって。どうかな?」

「いくらくれる?」

「金ならやる。そのかわり、俺になってくれよ」

約束を取り付けて、俺はホテルへチェックインした。
自宅にはホームレスがいる。

「良かった……これで、俺は宝くじから逃れられた……」

売り場の人も、俺が顔まで確認するわけない。
俺とホームレスが入れ替わったところで気づかないだろう。

翌日、俺はけして宝くじの結果を見なかった。

「大丈夫、どうせ外れる確率のほうが大きいんだ。
 今は何事もなく過ごしているに違いない。
 いつも通り……いつも通りにすればいい……」

おそるおそる家に戻った。
ドアには鍵がかかっていなかった。

「い……いない。ホームレスがいない!?」

まさか当たってしまったのか!?


プップー!

車のクラクションを鳴らされて振り返ると、
ホームレスが金色の車に乗っていた。

「よぉ、兄ちゃん。見てくれよこの車! あっはっは!」

「え、まさか……」

「家に宝くじが当選したって来た時には驚いたよ。
 でも、今日1日はあの家は俺っちのもんだから、
 当然賞金も俺っちのものだよなぁ」

「当たったのか!? 10億円!?」

「がっはっは!! これから死ぬまで遊んでも使い切れねぇぜ!
 兄ちゃん、あんがとよ! あんたは神様だ!」



「誰よりもマヌケな神様だがな!! がはははは!!」

男は車を発進させていってしまった。

「ちょっと待っ……!」

もう車は見えない。
ああ、あの男の言う通りだ。

道路にぽつんと取り残されて湧き上がる後悔。

「はぁ……もったいないことしたなぁ。
 思えば、こうしてチャンスを逃してきたから
 平凡で人並みな人生しか送れなかったんだっけな……」

その瞬間、遠くで耳をつんざく爆発音が響いた。
あわてて向かうとついさっき見た悪趣味な車が炎上していた。
ごうごうと燃え上がる炎の中に人影はもう見えない。

「ま、まさか……!!」

慌ててケータイで宝くじの当選番号を調べる。
見覚えのある番号が"2つ"一致していた。

「当たってたんだ……2つとも」

宝くじの人は「当選」とだけ言っていた。
それは「当たり」「ハズレ」の2つの意味だったんだ。

「あ、危なかった……」