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秋上がりの女

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男はスープを、女は野菜たっぷりの朝食セットを、注文した。男がスープだけでよいのは、きっと朝食を食べてきたのだろう。いつものような嫌味は言ってはいけないと、女は自制した。
男は、観光客が京都の町を潤していて、土地の値段が急上昇しているらしいと、ごく最近の新聞記事を話題にした。ホテル経営の基本的な数字を並べるが、女にはよくわからない。ただ、ホテルの稼働率が上がると、ホテル用地の価格が上昇することは理解できた。女は新聞もテレビも見ない。話題提供をありがたいと思ったけれど、相槌の打ちようがない。男は新聞を読まない世代を嘆きながら暗に女をとがめた。
食事が進んで、 
「さてどうしましょう」
と女が問えば、
「近くのホテルに行こうか」
 いきなりか、この男は、と女は軽蔑しそうになった。いやいや、今日は実験なのだと言い聞かせる。たしかにこれまでもう何度もデートのような待ち合わせを積み重ねてきて、きわどい会話も楽しんできたから、ホテルに誘われたとしても不思議ではない、かえってどうして誘わないのかと、男に問い詰めたくなることもあったが、こういう提案の仕方はおかしい、あいさつが足りないのではないか。
「ホテルって」
と女は別の表現で男をとがめかえした。女は高瀬川沿いにいくつかあるラブホテルのことなのだろうとわかってはいたが、尋ねてみることにしたのだ。
「今日はたっぷりと時間があるようなので、のんびり、静かなところで」
そのあとの、楽しみたいとの言葉は、男は飲み込んだ。
女は考えた。ホテルで何をするのですか、と素知らぬ顔して聞いてみる手もあったが、今の状況には似合わない。
「いっぱいだと思いますよ」
 男をたしなめるようにつぶやいた。男は女のこのことばを分析するのに手間取った。やはり、けっこう遊んでいる女だ、そうに違いないと判断させるものだった。男は決めつけてしまう。こづかいがほしいというのは口実で、しょっちゅう、男たちをホテルに誘っているに違いない。まあまあ、それならそれで気楽に付き合えるではないかと、男は自分を納得させて、このチャンスを生かそうと考えた。
「もう帰る頃やと思うけど」
「日曜日の朝でしょ、ゆっくりしているのと違いますか」
 女は男の言葉に重ね合わせるように、すぐに反論してきた。男はもう後の言葉が続かない。
「それもそうやな」
 男は、あいまいな表現でその場を取り繕った。打つ手がなくなって、思案する。一方、女も考える。いい男だとは思う。真面目なのだろう。しかし、段取りの悪い男は嫌いだ。あきれてしまう。デートと言っても、セックスが最終目的なのだから、そういうプロセスを準備しておくべきだろう。どうして、この男は女に判断をゆだねるのか、もたれてくるのだろうか、いやになってくる。妻がこの男を甘やかしているのだ、よくいるタイプと変わらない。
今日はしっかりおめかしをして来たのに、男は自分をほめないのだ。いつものようにどうして褒めないのか。また一つ評点が下がる。女の身づくろいをほめるのはとても大事なことだ。セックスが目的であっても。
 男の思案顔をたしかめて、女はここで優位になったことを確認する。主導権を握ったのだ。このデートに女はどこか、小遣いを求めたひけめがあったから、局面の転換はラッキーだった。
「お昼前後の予約はむつかしいやろうね、チェックインは早くて1時でしょ」
「日曜日はデイユースもないし、ホテルって、一日の部屋貸し、デイリー、昼から翌日の昼までの一日」
 女が畳みかけるように話し始めると、
「なるほどね、一日貸しか」
 男は感心した。なんでこんなことに感心するのか、女は少し違和感を抱いた。
「なんか、提案はないのですか」
「うーん」
男がなにか考えているようだが、考えてないようでもある。女は割り切って、次の段階に上がることに決めた。携帯でホテルの空室チェックを始めた。
「このホテルが空いてる」 
「そこなら近い、タクシーですぐやね」
ホテルはお昼の静けさがあった。20代の女性スタッフが迎えてくれた。男がチェックインの手続きをしている間、女はうしろの椅子に座って待っていた。若い女性のスタッフには、昼間からか、と思われたに違いない。

部屋に入ると、男が女を抱きしめた。今日はミニのワンピース、背中が開いているのでノーブラにした。そしていつものハイヒール。よく目立つアクセサリーを身につけてきた。ビッチな感じが出ているだろう。真夏を過ぎた町中では、初秋とは言え目立つ服装だ。
「脱いでみて」
女は下着姿になる。黒いブラジャーは、両側から包み込むようなハーフカップ、そしてひもパン。男は、ハイヒールのままで下着姿になった女を見上げるように眺めている。眺め終わると、ベッドに女を寝かせる。
「濡れてるか」
「さあ、どうでしょう、たしかめて」
パンテイを取って、花芯を観察している。
「きれいに手入れしてるね」
「あなたのために」
女の言葉をさえぎって、男は自身の先端をあててくる。いきなり押し込んでくる。
女はこの瞬間がいちばん、好きだ。処女を追体験するのである。女性性器は、包み込むようになるので、男根の形がよくわかる。とくに、いきなりはいい。いきなりだからこそ、処女体験に似てくる。
カーテンを開けて、陽光を部屋に導けば、野外露出に近い解放感が生まれて、昼間のセックスはとても刺激的だ。アニマルな婚約者を思い起こした。今ではこういうパターンにもたちまち対応できるようになった。
「犯されてる」
女は思わず、呟いた。いきなりの挿入にはふさわしいだろう。女は自身を熱くしようと、いきなりにふさわしい言葉を男に吐いた。男はこの言葉が気に入ったようだった。女にそそのかされて、男は表情を一変させた。言葉に対して体で反応してきたのだ。男は下半身いっぱいに力を漲らせていく。女はこれまでによく使ってきたいきなりパターンの一つであるが、いつも効果的だった。今日も速攻、即決である。男は本当に、ワンパターンである。
男の、そして女の性交欲をたかめる極めて効果的な言葉がいくつかあるが、これはその一つだ。
ワンパターンと言えば、20歳代、付き合ったアニマルな婚約者、同期の男を思い出す。この男は野蛮だった。ほんとうに一方的なセックスだったが、若さと言うか、未知の世界への導入部だったと言うか、アニマルな行為の一つひとつに、ただ従順に従った。婚約したことも女を素直にさせたと思う。その男が言葉での性的交渉を女にたたき込んだ。
かつては、男にそそのかされた言葉を今は、女は自在に操って、男をそそのかす。男はこの言葉を聞いて、この女はいい、と思った。男のペースであると思いこんだのだ。勘違いの序幕である。
危険な言葉は、最上の媚薬である。
男は錯覚して、あくまで性交の主導権が自分にあるのだと、気をよくした。女には男は自信過剰な方が面白い。男は男でこれからのお楽しみの主人公の役割に張り切っている。主役が二人、どのような展開になるのか、興味津々、ダブルスタンダードである。
「やわらかい」
「そう」
「いつから、濡れてたんや」
「あなたに会ったときからです」
男の言葉遣いが乱暴になり、女は頼りない声をあげるようにした。男はいっそう自信に満ちあふれてくる。
作品名:秋上がりの女 作家名:広小路博