或る夢
「おい、A、お前のせいで、みんなが失敗したんだぞ! お前が軽率に走り出すから! 君は先頭にいたのに! みんなをリードしなくてはならない立場の君が、なんでいきなり呼び声をあげることもなしに走り出すんだ?」
激しい罵声――としかAには捉えられなかった。Aは目を閉じて、その暗闇のなかに浮かんでくる、凄まじいまでに憎い担任の教師の顔を思い浮かべた。なぜ、これほどまでに僕を責める? なぜ、これほどまでに、僕は責められなければならない?
十歳のときのAは、無力だった。担任の教師がAを叱りつけるたびに、Aはただただ「ごめんなさい」とか「もうしません」とかのよわよわしい言葉を呟いたり反省文にしたりするだけだった。Aは今や最高に憎んでいるのだ。Aは片手に長い銀の釘を握りしめた。そして、釘の先端が教師に向いているのを確認して、こちらに向かってどなり散らしている教師の頭めがけて、勢いよく釘を刺した。ズバアッ!……
グワァァン、と教師の脳に釘の先端が深くめりこんでいく感覚があった。鮮血が飛沫をあげた。あまりにも美しい、紅い大量の血だ。教師はピタッと動きを止めた。
なおもAは釘をぬき取り、たてつづけに教師の頭めがけてズブリ、ズブリと刺していった。そのたびに教師の頭からは血が噴き出し、十回も二十回もやると今や彼の頭も顔も血肉で真っ赤になった。僕の怒りと憎しみの色だ。Aは釘を刺し続けた。教師はとっくに死んでいるはずなのに、ただ頭を差し出して立っているだけだった。
これは私による制裁である。過去に行われた、私が受けた傷を癒すための、暴力による報復なのである。
Aはここで目を覚ました。二十五歳の、犯罪をおかしていないAであった。しかしAは何かが自分の中で変わりつつあるのを感じた。(了)