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みすてぃぃ
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或る夢

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或る夢

 Aは、十歳の頃の自分が出てくる夢を見た。しかし小学生の頃の思い出というのは現在のAにとってただただ遠いものでしかなく、かつて私はそうであったとしか言いようのない、瑣末で下らない事柄であった。しかし夢で見た、大人に対する自己の従順さ、無力でしかあることのできない感覚が、Aに何かしらを呼び起こしたのである。それは次のようなものであった。
 Aは、同級生の子供たちと、何か課題のようなものに取り組んでいた。その課題というのは、夢である故不明瞭なのだが、漫画のキャラクターをチームを組んで捕獲するというものだった。クラスの授業の一環として行われ、従って特に制限時間は設けられていないが、日が終わる頃までにはその出来・不出来を評定するものであったのだろう。チームは五人組であった。
 Aらの組はまず田んぼの広がるだだっ広い場所に放り込まれた。一軒家が離れて建っている田園風景はしかし、当時のAが住んでいた町並を思わせ、懐古的な感情を呼び起こした。チームの五人の中で、Aが先頭に立ち(というのも当時のAはクラスの中でも常にリーダーとして振舞うような存在であった)、作戦を練ろうと提案した。漫画のキャラクターは町のどこかに隠れていて、Aらから逃走している。逃げ足は速い。それから捕獲の条件のようなものもあった。というのは、しばしばそのキャラクターは自分の真実の姿をくらまして、偽のコピーを作り出すのである。コピーは、その本物とそっくりで、ただ細かい色の違いや、表情の違いなどで認識しうるのだった。
 「あいつを捕まえるときは、本物の姿をしているか、偽の姿をしているか、それを見分けてから捕まえる必要がある。もし偽の姿をしているのを捕まえても、僕たちは課題をクリアしたことにはならないんだ」
 Aらは、最初に時間をかけて、まずそのキャラクターの真の姿と偽の姿の相違点などを、図にしたり箇条書きにしたりして、整理をした。なかなか素晴らしいレポートが完成した。それだけで先生たちの評価の対象になるとAは思ったけれども、課題は難しく、実際に獲物を捕まえて戻ってこなければならない。それでAらはいよいよ町の散策に出掛けた。
 Aが先頭に立って、五人は町のあちこちを見ながら、獲物がいないかどうか探した。彼らの進む道はどんどん田舎の、山のある方に向かっていった。勾配が緩やかにあがりはじめる。と、そこで、青色の物体がAらの目の前をサッと通り過ぎていった。「あいつだ!」それは背中でしかなかったが、確かにAらが捕まえるべき漫画のキャラクターの姿であった。そいつはどんどん坂道を上って私たちから遠ざかって行った。
 「追いかけるぞ!」「おう!」Aらは必死になって山道をかけていった。別段、背の高い山ではないのだが、坂道は右にも左にも蛇のようにくねって曲がって、それだけ距離を感じさせた。
 Aら五人組がそうして必死にまとまって漫画のキャラクターの姿を追いかけていたとき、学校のチャイムが鳴った――ような気がした。チャイム? あぁそうだ、これは学校の課題だったな、しかし学校から幾里も離れたこの場所で、なぜそのような音が聞こえるのだろう。或いは幻覚か、この耳の裡に残るチャイム音の間隔は……。そんなことを考えている内に、キャラクターはどんどん距離を広げていたので、Aは必死にペースをあげた。自分が先頭であるということをつい忘れて、ただひたすら山道をかけのぼった。
 ついにそのキャラクターの姿を捕える瞬間がやって来た! もう勾配はない、山頂のような場所で、キャラクターは動くのをやめて、Aらに姿を現した。しかし、その姿は、まるで出来そこないのアニメのようで、ひどく色づけが適当で、画素も粗かった。しまった、これは偽の姿である、とAらが気が付いたとて時すでに遅し。しかも、Aらの組は、ばらばらになっていた。先頭を走っていたAについてきたのは二人で、後ろの二人は見当たらなかった……分散したのだ。Aはまずいと思った。そのとき、
 「君たち、帰りなさい」
という大人の低い声がした。教頭先生? よく分からなかったが、とにかく学校側の人たちの声であるのは確かな気がした。プロジェクトは失敗したのだ。Aらは肩を落として、お互い仕方なかったよな、難しかったもんこの課題、などと言い合って、帰路を共にした。

 次のシーンに現れたのは、どこかの病院の一室であった……複数の患者がいる病室であった。そこでAは、現在のAが勤めている会社の先輩であるはずの男が病床に伏してテレビを見ているのを目撃した。男はAに気が付いた。十歳のAに、である。十歳のAは、やがて十五年後に出会うことになるであろう会社の先輩である男を前にし、立ちすくんだ。
 「ばかやろう! テレビで見ていたよ。チャイムの音が鳴った時に気が付かなかったんだな。あれが合図だったんだよ」
テレビで見ていた? Aは不思議に思った。そして男が眺めているテレビの画面を凝視すると、何とさっきまでの自分たちの山道でのキャラクター追いかけの模様が映し出されていたのである。山には西日が照りはじめた……そこで、あの学校のチャイムの音が鳴り響いた。そのとき、青色の体をした漫画のキャラクターは、分身した。一つは、まっとうな形のままの姿であり、もう一つはグロテスクな色合いの画素の粗い分身に。画素の粗い偽物のキャラクターは左方の道に逸れて、それに間もなくAと後ろの二人だけがついていったのである。一方で、まっとうな姿をした本物のキャラクターは、右の道に行き、そして後方にいた二人がそちらに向かった。こうしてAら五人組はばらばらになったのである。
 会社の先輩である男が溜息をついた。十歳のAはとてもいたたまれない気持ちになった。やがて男は口を開いた。
 「お前のそういうところが、細かいようだけど、足りないんだ。軽率な判断、簡単なミス……。その時はそれでいいかもしれないが、それが続くと、やがて命取りにもなる。お前の日常生活のようにな」
 この言葉は深くAを傷つけ、辱めた。この男は会社とは関係のない私生活面においてもしばしば口を出してくる癖があり、Aは毎回それに辟易していた。二十五歳のAはこの男が大嫌いであったのである。
 シーンが変わった……薄暗いアパートの部屋、子供、昼下がり。手前には座って子供の面倒を見ている会社の先輩である男がおり、奥の台所には奥さんらしき女性が洗い物をしてAらに背中を見せていた。
 「なぁ、A」「はい」「俺は、いま家族が一番大事なんだ。子供と嫁さん。家族はいいもんだよ。遠慮しないで、Aもたまには俺の家に遊びに来いよ」「……」
 最早十歳だか二十五歳だか分からないAは、この男の言葉を一方で受け入れつつも、どこか居心地の悪さを感じていた。感じずにはいられなかった。年齢が上であるってだけで、人生の先輩面をしやがって、気にくわねぇ。そりゃ、あんたに助けられたこともある。何回もある。だけど、俺をいちいち半人前扱いするんじゃねぇ。ことあるごとに。
 またシーンが切り替わった。さきほどの病室……今度は通路がある。その通路の奥の方から、教師が一人、歩いてきた。小学校のときの担任だ。Aは十歳に戻る。Aの担任は、Aの姿を確認するなり、急にどなりだした。
作品名:或る夢 作家名:みすてぃぃ