「歴女先生教えて~」 第一話
「そうね、つまりは教科書に載っている事柄を一ページ目から最後まで順を追って学習してゆかないという意味なの。全部を学ぶのは一年では無理だから、受験生は受験に出るところだけ集中すればいいし、そうじゃない人は面白いところだけ学ぶのが良いと思う。それとね、近代は何かとイデオロギーの問題などがあって教えにくいから省略しているけどここは大切なところなの。よく聞くでしょ、戦後の処理がまだ終わってないんじゃないかって言うこと」
「先生質問!」
「え~っと、高木くんだったわね。何?」
「去年戦後70年だったでしょ?90歳になるおじいちゃんが絶対に戦争はやったらダメだと言っていたんです。ボクがやられたらやり返さないと悔しくないの?って言うと、お父さんやお母さんを死なせても平気なのか?って怒られました。もちろん平気じゃないですが、敵が攻めて来たらどうすればいいのか教えてくれませんか?」
「高木くんのお爺ちゃんは終戦の時に20歳よね。恐らくその前に徴兵があって戦地に行かれているか、内地で訓練されていたんだと思うわ。その時の経験から苦く辛い事ばかりだったのでそう仰ったのね。解る気はするけど、男なら国と平和のために戦わないといけないって先生は考えるわ」
「お父さんやお母さんのためじゃないの?」
「国家を守ると言う事は日本人全員を守ると言う事。同じことよ」
「国家?漠然としていますね」
「高木くんの家族は?」
「はい、父と母と妹とお爺ちゃんとお婆ちゃんです。あと犬が居ます」
くすっと美穂は笑って言葉を返す。
「国家を守ると言う事は高木くんの家を守ると言う事よ。すなわちそこに住む全員の命と財産を守ると言う事なの。誰が大切で誰は死んでもいいなんて言うことはないの。解る?結果的によ、敵と戦って全員死んでもそこには正義があるの。堂々と戦ったという正義よ。日本人はこの心を忘れてはいけないの」
「でも、先生。助かる命があるのならたとえ逃がしても、匿っても、守るべきじゃないですか?」
「助かった人が、今までの日本人社会じゃないところで平和に楽しく暮らせると思う?」
「奴隷にされるというのですか?」
「奴隷ならまだまし。食べさせてもらえるからね。もっと酷いことになるとは想像できない?」
「殺されると言う事ですね?」
「男子はね」
「女子は?」
「なぶりものね。さんざん男の相手をさせて最後は殺す、または死を選択する」
「そんなことが戦争の時にあったのですか?」
「悲しいけど信念のない戦争は人間を最低にする。それは歴史から学ばないといけないの。日本人は誇りをもって敗戦を語ればいいと思うけど、そうはやってないからいまだに自責の念に駆られているの。たとえば原爆を落とされたのは日本人が降伏しないからだという風にね」
「そうじゃないんですか?中学の先生は確か戦争を始めた責任と原爆被害の責任は天皇にあると話していました。早く終わらせないからだと」
「よく覚えていたわね。高木くんは歴史が好きになれそうな感じよね。これからが楽しみだわ。そのあたりの話は授業の時に話すわ。さて、他に質問がある人?」
美穂は左右を見渡した。一番隅に座っているクラス一のイケメン体育系の加藤が手を挙げていた。
作品名:「歴女先生教えて~」 第一話 作家名:てっしゅう