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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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冰(こおり)のエアポート

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「まるで氷みたいじゃないですか。これじゃちぎれそうなくらい痛いですよね」
と、とても辛そうに言った。でも、何十分も外気にさらされていた博之の耳は、感覚が無くなって何も感じなくなっていた。痛いと言ったのは耳の穴の奥のことで、まるで耳鳴りのようにキーンとして、中耳炎のような痛みだった。
「本当にありがとう。これって僕にとっては、それほど最悪じゃないのかな?」
「いいえ。最悪です。(笑)」
「あはは」
博之は少し笑えた。この最悪の状況の中笑えるのは、寿美代の行動に心が温まったからだ。それに、立って両耳を押さえてくれている寿美代が、会話するには少し近すぎる距離だったので、照れ隠しの意味もあった。博之は出会ってまだ4時間程度なのに、美しい女性が親身になって話掛けてくれるだけでも頑張れた。もしこの日、エコノミーじゃなかったら、彼女の助けを請うことはなく、別々に行動していたのかもしれない。

「ヨン チュウグ マ?(これを使いますか?)」
不意に年配の女性が中国語で話しかけてきた。手には赤いビニールの塊の入った小袋を持っていた。その外装袋には写真が載っていたので、すぐにそれが何か判った。携帯用の雨合羽である。
博之は、
「プー ハオ イース。(すみません)」
と言って、それを受け取った。寿美代がそれを広げると、ポンチョ型の合羽だった。博之の頭からすっぽり被せて、裾が広がらないように素手で押さえた。そして博之はそのまましゃがみ込んだ。
「ぜんぜん違う。風が通らないから温かく感じる」
「ああ。よかった」
寿美代はこれをくれた女性に頭を下げた。
博之は、PCの保護袋をバッグに押し込み、首に巻いていた寿美代のマフラーも返そうとしたが、寿美代は首を振って、マフラーを博之の耳を覆うように巻き直し、合羽のフードをその上に被せ直した。そしてようやく寿美代自身も手袋をはめた。