小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

それから

INDEX|12ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

と、最近、少なからず横柄さを増した奴の声。
それを聞くと、みんな黙り込んで、鬱々とした気分になる。
奴は、俺達の事など気に掛けない。気に成るのは、貸した金の回収だけ。
俺は、この2ヶ月、貰うべき給料の6割しか貰っていない。まあ、姐さんの店のバイトが有るから、それでも何とか遣っていける。
ただ、トントン、コンコンの、家の改造にまで資金が回らない。これも考え様で、大家の婆さんの言いたい放題を聞かずに済むと思えば好い。それに、何時までに・・と期限の有る改造でもないから。

その日、若造の剣幕は、いつも以上だった。
事務所の外に居てさえ、罵声だと分かる大声だ。
なんだか、この若造は、勘違いをしているんだな。金の持ち合わせが無い処に来たなら、幾ら大声で怒鳴ってみたところで、金は、天からも降らないし、地からも湧いて出ない。
少し考えれば分かる筈だけど、このバカは、そういった事すら、怒鳴れば何とかなると思っている節が有る。
何時もより酷い剣幕の彼、俺が、車のキーを戻す為に事務所へ入った時、
「おんどりゃぁ(あなた)、人を馬鹿にしとるんかっ!」
と、威勢よく小さな応接セットのテーブルを蹴り上げた。
それまで、机に就いていた娘さんは、彼のあまりの剣幕に怯え、立ち上がって俺の近くに来た。
そして、気付いたら、俺は、借金取りの若造の腕と襟を掴み、事務所の外まで引き出していた。
(うわ・・やっちまった・・)
と思ったが、もう遅い。というか、思う前にスイッチが入っていた。
俺は、奴を抱えて、そのまま投げ飛ばした。
「いい加減にしろっ! 物を壊したって、何も出る訳などないだろう!」
「おんどりゃぁ・・、今、何をしたんか分かっとるんか!」
「いちいち煩いんだよ。俺が、何をしたのか、訊かなきゃわからないのかよ!」
「何じゃ~!? われ(あなた)、××(怖い処の名)を舐めとるんか!」
「・・・(ああ、社長、其処から金を借りてるのか・・)」
「どしたんなら(どうなさったのですか)? ××の名前を聞いて、ビビっとるんか?」
「・・(何処かで聞いた台詞だな。広島では、喧嘩の前に、こう言うのが、決まりなんだ・・)」
「黙っとらんで、何とか言わんか!」
「・・いちいちうるせえんだよ。お前、後ろに付いてる者の名を出さなきゃ、何も出来ないのかよ。」
「何じゃ~~!?」
「お前一人で、此処に来てんだろうが! 一人で、物事を片付けられないのかと、言ってるんだ。」
若造は、問答無用と俺に向かって来た。相当怒り心頭の体だ。

喧嘩で、最終的に負けの判定を喰らわない条件。
それは、なるべく闘う前に、相手の利き腕(ききうで)を知っておく事。
それと、これは、俺だけかも知れないが、まず首から上と肋骨以外で、相手のパンチかキックを受けて、その実力を推し量る事。

奴は、いきなり俺の右足を蹴って来た。
これで、まず左利き。そして、相当使い慣れた、スムーズな蹴り。
かなり修羅場を経験していると見た。
そうなれば、俺としても、遠慮などする必要は無い。

俺は、奴に近付いた。
その俺に、奴が、今度は、殴りかかって来た。
そのパンチは、俺に当たったが、撃たれると同時に、俺は、奴がパンチして来た腕を掴み、もう一方の手で、脇腹に一撃。更に、間髪入れず、馬鹿力で奴の胴体を両腕で抱え、そのまま持ち上げて、再び地面に投げ付けた。
これには、奴も少し驚いた様だ。おそらく、奴に取って初めての経験だったのだろうな。
地面に投げ付けられて、まだ起き上がれずにいる奴の上に乗り、ところ構わず殴るわ、殴るわ・・。そして、立ち上がり、4~5回、左の腕と左脚を連続で蹴り付ける。
更に、奴の動きが殆ど止まった処で、俺は、近くに停めてあるトラックの荷台から、ロープを持って来て、それで奴の首を締め上げた。
奴は、なんだかゲェゲェいいながら姥貝ていたが、手加減など出来ない。というか、元々本気でやる喧嘩に、手加減などという言葉は、少なくとも俺の辞書には、無かった。
だから、そのゲェゲェ言わせている勢いで、奴をロープの残りで縛り上げた。
そして、
「お前の様な者など、この世に居ない方が好いんだ。これからユンボで深い穴を掘って、其処に埋めてやるから・・。暫く待ってろ。」
と、資材置き場の横をユンボで掘って、転んだまま、その身動きの取れない身体で見ていた若造を、ズルズルと引っ張って行き、掘ったばかりの穴に落とし込んだ。
「機械で埋めれば、すぐだが、お前にも死ぬ覚悟をする時間が要るだろう。だから、スコップで少しずつ埋めてやる。せめてもの親切に感謝するんだな・・」
俺は、スコップで奴の脚の方から、順に土をかける・・
スコップの土が、かかる度に、
(これは、本当に生き埋めにされる・・・)
と、やっと状況が飲み込めたのか、若造の顔から、血の気が失せて行く・・
鳩尾の辺りまで、かなり厚く土をかけ終えた頃、今までの光景を一部始終見ていた社長以下全員が、俺を止めに入った。
「さんばんくん・・・、もう、ええ・・」
「さんばん、止めとけ。ここで人殺しになったらいけんで。」
などと、少し離れた処から声を掛ける。
(今思うに、その時、俺に近付いたら、止めている自分達までも生き埋めにされかねないと思っていたのかな。)
だが俺は、
「こんな奴の一人や二人、居なくなったって構いませんよ。それに、見て下さいよ、奴が乗って来た車を。こいつを埋めて、あの高級車を売り飛ばせば、借金くらいすぐに返せますよ。」
と言いながら、土をかけ続ける。
土の重さで、奴の呼吸がやや困難な様子・・
その辺りで、娘さんが、背中から抱き付いて来て、
「もう、ええ・・。 もう、ええけん、お願いじゃから止めて・・・」
と、小さいけれどしっかりとした声で言い、そのまま、泣き始めた。

どうも、女性の涙には、弱い。

俺は、スコップを手放し、穴の中に降りて、
「いいか、よく聞け。そして、答えろ。このまま此処で永遠に眠るか、それとも、命を救われたお礼に、お前の車を売り飛ばして、此処の会社の借金を返すか・・、どちらを選ぶ?」
「・・・・・」
「早く決めろ。俺は・・、もう分かってるだろうが、気が短いんだ。」
「・・・」
「何を黙ってるんだ!」
「さんばんくん・・・、たぶん、その人、土の圧力で口が満足に効けんのかも・・」
「えっ? ・・ああ、そうですか・・。じゃあ、もう一度訊くから、好みの方で頷け。」
何度も、小刻みに頷く若造。
「このまま、死ぬか?」
彼は、いやいやを、もう分かったと言っても続けている。
「じゃあ、此処の借金を、お前が代わって払うか?」
これも、うんうんと、何度も頷く。

結局、折角かけた土をまた取り除いて、みんなして、縛られたままの奴を穴から引き上げた。

それでも人間と言うものは、分からない。
助かった途端に、また威勢よく吠えるかもしれないので、彼が、約束を果たすまで、俺は、同行する事にした。
そして、その日の夜遅く、若造は、自腹を切って、AB建設の借金の全てを返した。

金を返済する為に、若造に着いて行き、某事務所の近くで待っている間、俺は、生まれて以来、最高の緊張状態だった。
作品名:それから 作家名:荏田みつぎ