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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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髪食系女子たちの晩餐

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今日は珍しくおしゃれな美容室に行ってみることに。
ネットではかなり高評価のお店。

「いらっしゃいませーー」

店内はおしゃれな内装。
いかにもいい感じに仕上げてくれそうな雰囲気。
店員もきれな人ばかり。

ただ、1点。

「あの、あれはなんですか?」

「カウンター席ですか? お気になさらず」

「はぁ……」

私が単に知らないだけかもしれない。
美容室にカウンター席があるのは普通なのかも。

最近はカフェと本屋さんが一緒になってるのもあるし。

「では、シャンプーしますね」

シャンプーからトリートメントまで丁寧な仕事。
いい香りがしてすごくいい気分。

「はい、終わりましたよ」

「わぁ、ありがとうございます。
 すごく可愛くなってます」

髪を切り終わると、予想通りの仕上がり。
わざわざここまで来たかいがあった。

髪の毛は床ではなく、イスの受け皿へと落ちていた。
店員は髪の毛を集めると、カウンター席へと運ぶ。

「あ、あの……なにを?」

「当店ではこういったサービスもやっておりまして」

私の切った髪の毛は、カウンター席に座るおじさんへと提供された。
おじさんは目をつむり味わうように髪の毛を口に運ぶ。

「ほほ、花のシャンプーがじつにかぐわしい。
 丁寧なトリートメントが芯まで浸透しておる」

おじさんは満足そうに食べている。
さすがに正気を疑ったが、もう捨てている部分なので
今さらどうこう言えることじゃない気もする。

「ありがとうございましたーー」

釈然としないまま店を出た。
髪はいい感じに切ってもらったので満足しているけれど。


それから数日後。
グルメ番組で見覚えのある顔が出ていた。

「あ! このおじさん……!!」

『ここのうどんは絶品なんですよ。
 コシがあってダシを吸い込んでいてね』

テレビの中で、カウンター席に座っていたおじさんが解説している。
肩書きにはグルメ評論家と書かれている。

「あのおじさん……すごい人だったんだ」

グルメな人がわざわざ通うくらいの店。
髪の毛ってそんなにおいしいのかな……。

気になった私はあの店にまたやってきた。
今度は切りにではなく、食べに。

「いらっしゃいませーー」

カウンター席に座るとメニューが渡される。

「どういった味付けに?」

「あ、味付け……!?」

「お好みのシャンプーやリンスやフレーバーを選んでください」

メニューから好みのシャンプーを選択して客を待つ。
女性の客が髪を切られていると不思議とお腹が減ってくる。

「どうぞ」

切られた髪はさらに盛りつけられている。
恐る恐るフォークで巻き取り口にはこぶ。

「………おいしい」

まるでパスタ。
いや、パスタよりも細くてソースが絡んでいる。

やや湿った髪がのどをするりと過ぎていく。
食事の手が止まらない。

あっという間に食べ終わるころには、
すっかり髪食にハマっていた。

その次も、その次の日も店に通い詰めた。

気が付けば毎食美容室に行くようになっていた。

「あの、お客様」

「あ、もう準備できたんですか? ちょうどお腹減っていたんです」

「すみませんが、髪の毛の数は限られています。
 ほかに召し上がりたいお客様もいらっしゃいますので……」

店員の言いたいことはわかった。
私もうすうす自覚していた部分でもある。

「ごめんなさい、私ったらすっかりハマっちゃって。
 そうですよね、私ばかり食べたらほかのお客さんが入りづらいですよね」

美容室には週に3回まで回数を減らした。



「……食べたいなぁ」

髪食を抑えてからも食事はパスタといった麺類。
満たされない気持ちを近いもので発散している。

ああ、食べたい。
あの喉元を通る味をまた味わいたい。

ぐらっ。

「きゃっ」

なんて電車で考えていると、思わず揺れにバランスを崩した。
ヒールの足がうまく動かずにそのまま転倒しそうになったとき。

「大丈夫ですか?」

隣に立っていた女性が支えてくれた。

「あ、ありがとうございます」

感謝をしながらも私の目は一点にくぎ付けだった。


お い し そ う。


流れるようなロングヘア。
光を反射し水を張っているような美しさ。
あれを口に運んだら……。

「あの、お礼したいんですけど、時間ありますか?」

「いえそんな」

「お願いします!!!」

私の必死さに気おされて女性をうまく誘導することに成功。
私の頭はフル回転した。

なんとか美容室に行かせて髪を切って……。

いや、そんなことできない。
いきなり"髪切った方がいい"なんて言えない。
この髪を食べる方法は……襲うしかない。

「この先に静かですごく落ち着ける場所があるんです。
 よかったらその店で食事でもしていきませんか?」

「嬉しいです、私もお腹減っていたんで」

トントン拍子でひとけのない場所まで誘導していく。
私は彼女の後ろを歩いて、ポーチからハサミを取り出す。

完全に油断している。
後ろからなら失敗しようがない。

「いまだ!!」

私は彼女の髪をつかんで、ハサミを伸ばした。


ずるり。


「えっ!?」

髪は手ごたえなく滑り落ちた。
私の手にはぷらぷらとロングヘアのヅラが下がっている。

「……おいしいよね、髪って」

顔を上げると、彼女が立っていた。
その手にはすきばさみが握られている。

「私もね、あなたと同じ髪食主義者で出禁にされちゃってね。
 自分の髪も食べつくしちゃってもう食べれないの」

「う、うそ……」

「そんなきれいな髪見たら、我慢できないよね?
 気持ちわかるよ。私も同じだもん。
 髪は女の命……血となり肉になるの」

彼女はにこりと笑って、私の髪を食い尽くした。
以来、私が髪食することはなくなった。

血走った眼で髪をむさぼる彼女の顔がちらつくから……。