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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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ストーカーストーカー

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『あなたに一目ぼれしました。
 あなたの好意を向けてもらうために
 これからストーカーいたします  おしゃれストーカー』

高級な香水を振りかけられた、羊皮紙の手紙が届いた。
達筆で美しい文字と内容との不釣り合いさに顔が引きつった。

「す、ストーカー……?」

その日は単なる嫌がらせだろうと、
自分をだまし納得させて済ませた。

翌日から、おしゃれストーカーからのアプローチが始まった。
食事を取ろうと店に入ると……。

「本日、ご予約の方ですね。
 奥のプレミアム・ファースト席へどうぞ」

「え!? ち、ちがいます!」

「そんなことはありません。
 おしゃれストーカーなる人から言付かっております。
 もちろん、お代もすでに受け取っています」

「おしゃれ……ストーカー……」

「伝言は、"食事を楽しんでください"とのことです」

彼はストーカー。
私の出入りする店なんて熟知しているぞ、アピールなのか。
なんだか怖い。

食事を終えて外に出ると、雨が降り始めていた。

「どうしよう、今日は晴れるって聞いてたのに……」

すると、目の前で急にタクシーが止まった。

「あの、あなたが○○さん?」

「え? ええ、そうですけど」

「この時間、この場所であんたを拾えって言われててね。
 乗ってくかい? 代金は受け取ってるよ」

これもおしゃれストーカー。
私の行動すべて熟知しているということなのか。

「け、結構です!!」

なによ。なにがおしゃれストーカーよ。
単に私のすべてを把握して所有物にしたいってだけじゃない!

そのことを友人に話した。

「はぁ!? またストーカー!?」

「でも、昔のストーカーじゃないと思うよ。タイプ違うし。
 それに、昔のストーカーには住所ばれないように引っ越したし」

「でも心配だよ。何かあったら連絡してね?」

友達は心配してくれていた。
家に帰るとまた小ぎれいでおしゃれな手紙が届いていた。


『いつかあなたに、最高に美しい朝日を見せたいです。
              おしゃれストーカー』

「なにがおしゃれストーカーよ。
 ただのナルシストじゃない」

手紙を破った瞬間、ちょうど足元にくず入れがあった。
『届かない思いはこちらへ』と紙が貼ってある。
この整った文字は間違いなく……。

「おしゃれ……! ハッ! いけないいけない!」

くず入れに手紙を入れて家に入った。


翌日も、翌日もおしゃれストーカーからのアプローチは続いた。

ただ、そのどれもが気味悪いぬいぐるみを送ったりではなく
スマートでスタイリッシュで、クールで、つまり……。

「おしゃれ……!」

気が付けば私は彼からのアプローチを待っていた。

「やっぱり男性って、欲しいだけの気遣いをしてくれる人だと思うの。
 気遣いってやりすぎると寒いし、やらな過ぎても嫌じゃない?
 そういうのわかってくれる人が理想なのぉ♪」

「誰のことを話してるの?」

「え!? え!? ちがうよ!?
 あくまでも、理想の男の人の話だからね!?」

「それはいいけど、あんたストーカーはどうなったのよ」

「うん、それは……まだ……」

ストーカーさんから何をしてもらえるか楽しみにしている。
……なんてことは言えない。

「まあ、そんなことだろうと思ったよ。
 私から警察に連絡して、あんたの警備をお願いするようにしたわ」

「え!? そんないいよ!?」

「そうやってすぐ遠慮するんだから。
 警察の人もノリノリだったし、ストーカーも退治できるでしょ?」

友達の好意を断れずにその場は終わった。

実は昔にも私は典型的なストーカー被害に遭っていて、
そのときも友人に相談した経緯もあり、
今回も友人は使命感にかられて行動しているのもあるんだろう。

家につくと、警察官が待っていた。

「あなたの警護を任された佐藤です!
 不審者ひとり近づけさせません!!」

「ど、どうも……」

その日から警察官は私につきっきりで守ってくれた。
けれど、おしゃれストーカーからのアプローチは止んでしまった。

「はぁ……どうしちゃったんだろう。ストーカーさん……」

彼が送ってくれた昔の手紙を読み返す。
今ではもう消えてしまった香水ににおいを思い出して。

「……やっぱり、もう送れなくなったのかなぁ」

あれだけつきっきりで警備されたら何もできない。
……いや、待って。

「もしかして、あの警察官さんがおしゃれストーカーさん!?」

私の中で何かがつながった気がした。
警護がはじまった日と、アプローチが来なくなった日は同じ。

それはきっと監視されてできなくなったのではなく、
つきっきりで警備してるからできなくなったんだ。

「そうよ! きっとそのはず!」

今も私の部屋の外で待ってくれている。
おしゃれストーカーさん。

「あなただったのね!!」

私はドアを開けた。
警察官はちゃんとドアの前で待っていた。

「ふひ、ふひひ……。
 やっと、ぼ、ぼぼ僕の好意に気付いてくれたんだねぇ……」

にちゃあ、と糸引く口が開いた。
寒気と鳥肌が立ち、ふたをしていたはずの記憶が思い出された。

「ちが……ちがう……あなた……おしゃれストーカーじゃない……」

「おしゃれストーカー? なにそれ?
 それより嬉しいよ、僕の好意に気付いてくれたんだね。
 急に引っ越すからすごくびっくりしたんだよ」

「あなたは……昔のストーカー……!」

「安心して。僕が君を守ってあげるから。
 ずっとずっと僕の城の中で守ってあげるから」

「いやっ……離して!」

男に羽交い絞めにされてしまう。
圧倒的な男の力の前に抵抗する意思すらなくなる。

「大丈夫っ、僕の城につくまでの我慢だから!
 暴れなければひどいことはしないよ!!」

パトカーのトランクに叩き込まれる。
男がトランクを閉めた瞬間、パトカーが発進した。

「ああ……もう……終わりよ……」

昔ストーカーからはカメラ内蔵のぬいぐるみや、
家に勝手に入ってバラの花束が届けられたりしていた。

おしゃれストーカーとは遠い下品で悪趣味で一方的。

明らかに違うのに、どうして私は勘違いしてしまったんだろう。
恋は盲目というけれど、後悔してももう遅い。

「はぁ……どんどん遠のいてる……」

トランク越しに感じる車の速度や移動距離。
かなり遠くまで来ていることがわかる。

「城とか言っていたから、家なんだろうな……」

ストーカーは警察官。
手錠やら拘束具には事欠かない。
これから始まる地獄の日々を想像して死にたくなる。

――キッ。

何時間走っただろうか。
車が止まった。

私は覚悟を決めて、トランクが開くと同時に脱走する準備をした。

「いま!」

トランクが開いた瞬間、体を起き上がらせて……。

「あっ……」

逃げるはずが、その意思が根こそぎ奪われた。
目に入った風景のあまりの美しさに。

「きれい……」

海岸だった。時刻は朝方。
海から赤い太陽がのぼって、幻想的な風景を映している。
こんな光景を見たことはなかった。

「約束したよね、君に最高に美しい朝日を見せるって」