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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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赤秋(せきしゅう)の恋

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6


春は11年の間、時々、雪の日の大学受験を思い出す。運転手の方の親切を感じる。
 パリから帰国し、国会図書館で長谷川清の作品を調べていた時、ふと、当時の新聞を観たいと思った。
雪路になれない都会のドライバー事故多発・・そんな記事が眼に入った。写真に写っていたのは、見覚えのある車の屋根に乗っていたタクシー会社のロゴであった。春はケータイで写真を撮った。何か手掛かりがつかめたと感じた。
 翌日にA市に向かった。当時3社あったタクシー会社は2社になっていたが、ロゴマークの同じ会社は残っていた。新聞の写真を見せると、写っていたナンバーから、大山雅夫であると判明した。すでに退社していたが、大山を知っている同僚が、春が大山さんに恩があると事情を話すと住所を教えてくれた。手土産を置き、春は立ち会った担当者に礼を言った。
「バッグの美人画はこの町出身の春さんですね」
礼を言った担当者は春にそんな言葉を投げかけた。
「はい」
春は深く頭を下げて部屋を出た。
 教わった住所をナビで検索すると歩いても30分くらいの距離であった。高校生の時まで住んでいたから大体の見当は付いた。
大山の家までたどり着くと、募集の張り紙が眼に入った。春は大山に会って当時の礼を言い、20万円ほど渡すつもりでいた。その気持ちが、働いてお返ししたいと思うように変わった。
両親が離婚し、施設に高校生までいた春には、A市に泊る家はなかったが、ビジネスホテルに滞在するつもりでいた。