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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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赤秋(せきしゅう)の恋

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3


 西日のせいか春は夏の作業服の前ボタンを2個外した。
「エヤコン入れようか」
「大丈夫ですから」
「無理しないでいいから」
雅夫はエアコンのスイッチを入れるために作業から離れた。
「ありがとうございます」
「俺も暑いと思っていたから」
 春が勤めて10日になる。必要の事以外は会話をしなかったが、春のことを何も知らないがゆえに、雅夫は春の事を知りたかった。もちろん仕事をしてもらえば良い関係なのだと自分には言い聞かせた。
 昼休みは1時間ある。2人の主婦は近所なので、家で食事をする。春は最初は車で出かけていたが、ここ2日間は弁当を食べていた。雅夫はお茶でも運ぼうかと考えたが、特別扱いのように思われたくなかった。春は弁当を食べ終えると、ケイタイをいじっていた。ゲームをしているのかもしれない。その春の一つ一つの行動が、今の雅夫には気になった。作業場と自宅は同じ敷地内にあったから、母屋の2階に上がると作業場は丸見えであった。今までは昼休みはテレビを観ていた。雅夫は春に惹かれて行く自分の心が不思議であった。恋をしたこともある。同棲もした経験があった。それらは、なぜか赤い一本の糸で結ばれてはいなかった。雅夫はそんな過去から結婚は諦めていた。春が勤めてからこどもを気遣うパートの2人の主婦の姿が家庭と言うものを雅夫に感じさせ、雅夫の気持ちに変化をもたらした。雅夫は自分の気持ちがこんなにも簡単に変わっていくことに人を好きになる力を感じた。その一方で、ひとめぼれ、片思いであることも自覚していた。