CLOSE GAME
お父さんの地位の関係ないところ。自分の事を色眼鏡で見られないところ。そして、友達がいるところ。
「なんだよ。それじゃ、俺もそこに行かなきゃならないじゃん」
笑いながら宗一郎が言った。
お父さんの言いなりでも、お兄さんの口利きでもない、普通の学校。
「とりあえず、明日にでもパパに言って、それから……」
智が嬉しそうに算段を立て始めた。
「公立って事は、高校も好きなとこ選べるから……」
好きなとこ、って。
流石、頭の良い奴は、言う事が違う。そう言えば、宗一郎は何になりたいんだろ?
「俺? 医者は、兄貴達には敵いっこないし、向いてないし」
“血、苦手なんだよ”と気不味そうに笑う。
「医者は立派な仕事だし、その医者である父さんや兄貴達は誇りに思うけど、俺は別の方法で人を救いたいんだ」
宗一郎はロボット工学を学びたいのだと言った。
ケガや病気を薬やメスで救うのも素晴らしい事だと思うけど、ケガや病気で身体の一部を無くしてしまった人の為、器械で補える物を作っていきたいんだ、と胸を張る。
それは、無くしてしまった人達の希望でもあり、家族のやっている医療とも関係の深いものだと。そう言った宗一郎は凄く眩しかった。
「貴久は、ひとまず、スイミングからだね」
ボクだけ、目標が随分と近い。
「まずは、水深20センチでも溺れないように……」
「しつこいよ、亮介!」
気にしてるんだから、あの川での事は。って、智も宗一郎も笑ってるし!
「でも、智。当分はムリでしょ?」
智の骨折が数日で治るようには思えない。
「智が治るまで、俺が見てやる」
宗一郎がメガネを上げた。
「えーっ!」
なんか、スパルタな予感がして思わず声が出る。
「“えーっ!”って言ったから、ついでに勉強も見てやる」
……ヤダ……。
ボクのヘコんだ顔を見て、亮介と智が笑ってる。
みんなで話して、突っつき合って、笑顔で顔がクシャクシャになる。まるで、冒険をしている時のように……。
笑い声が止み、シンとなった病室の前、智が今来た廊下を振り返って呟いた。
「ね、祐太も、来るかな?」
ボクも今、言おうと思った言葉。それは、きっと、みんな同じだ。
「中学校、誘ってみるか?」
扉に寄りかかって亮介が笑う。
「ついでにスイミングも」
肩をすくめるボクの額を弾きながら、
「そうだな」
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒