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Ending


  
 目を開けると……。
 開けられなかった。苦しくて、目を強く閉じたまま胸の下に敷いた枕を握り締める。咳は出るのに、息が吐けない。そんな感じ。狭くなった気道に痰が詰まって、口先だけで息をしている。ナースコールに手を伸ばす力もなく、ただずっと、必死に空気を探していた。
 不意に身体が起こされ、堅いものが口に触れた。
「ほら! 吸い込め!」
「痰が先だ!」
「そーなのか?」
 妙なやりとりが聞こえて、背中をさすられる。
「……この辺だっけか……」
 言った直後、首の付け根より少し下の部分を軽く連打され、詰まっていた物が吐き出された。
「ほら! 吸って!」
 口に触れたそれをくわえて、一気に吸い込んだ。見る間に呼吸が楽になる。
「おぉ! すっげーな! 本当に楽になるんだ?」
 そう言ってはしゃぐ手が、僕の頭に触れた。
「大丈夫か、貴久?」
 聞き覚えのある声に顔を上げると、そこには、パジャマ姿の、
「亮介! 宗一郎!」
 がいた。
 松葉杖をついた亮介がボクにピースを突き出す。
「よくここが分かったね」
 枕を抱いたまま、二人を見上げるボク。
「ユウタもどきの言葉と、あっちに行く前の俺達の状況を考えたら答えは自然に出る。後はお前の病室を探すだけだった」
 それも、咳き込む物音ですぐに分かったのだと、メガネを上げた。
「智は?」
 呼吸が落ち着いてきたから、ベッド脇に置いてあるペットボトルの水を飲む。
「この奥の個室だ」
 セレブの個室は院長達の打ち合わせで承知しているのだと宗一郎が頷いた。
「動けるか?」
 問い掛けに水を置いて頷く。
 身体を動かして、スリッパに足を置いて……。
「いたっ!」
 突然、病室の入口で声がした。そろって顔をあげるボクら。
「声が聞こえたから」
 嬉しそうに入ってくる。
「絶対に“夢”なんかじゃない! って思ってた!」
 智が亮介の横に立って、その足を見る。黙ったまま、亮介が智の左肩を突付いた。そして、顔を見合わせてニッと笑い合う。
「何を言っても信じてくれないし、“夢です”って言うんだもん」
 智が親指で後方の扉を指す。ペコリと頭を下げる黒服の人達。思わず、ボクらも頭を下げる。
「僕、ここで少し話してから戻るから、先に帰っててよ」
 振り返った智が笑顔を向ける。でも、命令形。
「ですが、坊ちゃま……」
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒