CLOSE GAME
学校だった。見覚えのない学校。
教室の中、みんなの笑い声が聞こえる。
「なんだよ。ちょっと手が当たっただけじゃん!」
「痛くなんかないだろ?」
「いちいち泣くなよな」
「お前、女なんじゃねーの?」
「だよなー。すぐに泣くんだもん」
「スカートでもはく?」
「祐太じゃなくて、祐子?」
「あはは! ピッタリ!」
泣いているのは……。ユウタ?
「全く!」
今度は大人の声だ。
「いつもいつも泣いて帰って。みっともないとは思わないのか?」
これは、きっと、お父さん。
「そうやってすぐに泣くから、やられちゃうのよ」
これは、お母さん。
「だって、お父さん……」
「言い訳するくらいなら、少しはやり返すくらいの事をしてみせろ!」
「でもね、お母さん……」
「毎日誰かに謝りに来られるのも恥ずかしいのよ!」
部屋の中でひとり。
「……叩かれたら痛いよ。ひどい事言われるのも胸が痛いよ。ぼくは痛い事を人にはやりたくないよ……」
小さな小さな声が聞こえる。
「ゆうちゃん! 学校は?」
「……お腹、痛い……」
「ゆうちゃん! 塾は?」
「……熱がある、みたい……」
「ゆうちゃん!」
お母さんの声が大きく小さくこだまして、やがて、部屋の中、ひとりで閉じこもってゲームをするユウタが見えた。
来る日も来る日も、もくもくとゲームを続ける。お父さんは何も言わなくなり、お母さんから笑顔が消えた。
「いい加減にしなさい!」
ある日、お母さんが強引に部屋へと入ってきた。
「学校へも行かないで、毎日毎日こんなゲームばっかりして! だから友達が出来ないのよ!」
「……友達なんて……」
「せめて学校へ行ってちょうだい。でないと、恥ずかしくて買い物にも出られないわ!」
「学校に行ったら、またいじめられる」
「あなたが勝手に“いじめ”だと思ってるだけよ!」
「嫌な事、いっぱいされるのに、ぼくの勝手なの?」
「ご近所でなんて言われてると……」
「お母さんは、ぼくが悲しいより、自分が辛い方がイヤなの?」
「家族みんなが白い目で見られてるのよ!」
「なのにぼくを晒し者にするの?」
「こんなものがあるから……」
お母さんがゲームを取り上げる。
「ヤダ! 返して!」
「いい加減に、しっかりしなさい!」
そう言ってお母さんが窓を開ける。
「お母さんも、ぼくに意地悪するの!?」
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒