CLOSE GAME
ふたり
目を開けるとベッドの上だった。夢だったのかと思ったが、違った。なぜなら、そこは家のベッドだったから。そして、ボクはボクを見下ろしていたから。
ベッドの上、小さなボクがいる。
「お外、行きたい」
喘鳴の響く声でお母さんに縋るボク。
「ダメよ。まだゼイゼイしてるでしょ?」
「みっくんと遊ぶって約束した」
「また今度にしましょうね」
“今度”なんて来る事はなかった。なぜなら、その直後、入院してしまったから。
小児病院というのは、子供はお見舞いには来れない。だから、入院している間は、両親以外は担当医と看護士、後は、同じ境遇の子供だけが話し相手だった。
しばらく入院して、久しぶりに学校へ行く。登校するボクにクラスメートが驚いている。
「ねぇ。今日さ……」
勇気を振り絞って話し掛けてみるけれど、返ってくる答えはどれも同じ。
「だって、すぐに咳が出ちゃうでしょ?」
「たかくんが入院になったら、ぼくのせいになっちゃうもん」
ボクの前から、友達がいなくなった。
辺りが暗くなる。これは、真夜中。咳き込んでいるボクをお母さんが抱きしめている。
「大丈夫よ、たかくん。もうすぐ救急車が来るから。大丈夫よ」
ボクの背中をさすりながら、お母さんが泣いている。何日も軽発作が続き、お母さんもボクも眠れない。そして、体力が落ちた瞬間に重度の発作が起こる。お父さんは出張が多くて、いつも、お母さんがいてくれた。
「お母、さん……。ごめん、なさい……」
ボクが弱くて、お母さんをいつも困らせる。
「たかくんは悪くなんてないのよ」
救急車の中、ボクの頭をそっと撫でてくれる優しい手。
ボクがいなければ、お母さんはちゃんと眠ったりお仕事出来たりするんだ。きっと泣いたりしないで、ずっと笑っていられるんだ。ボク、お母さんの笑ってる顔、大好きだよ。
「たかくんがいなくなったら、お母さん、毎日泣いちゃうんだからね」
抱きしめてくれるお母さんの胸は温かい。
じゃ、ボクが“いなく”て“いる”のがいいの? だったら、ずっと病院にいればいいんだ。お母さんも寝れるし、ボクもすぐに診てもらえるから安心だし。
「あのね、お母さん。病院にも学校があるんだって」
「院内学級の事? たかくん、行きたいの?」
一年の殆どを病院で過ごすのなら、ここで友達を作ればいい。単純に、そう思った。
けれど……。
作品名:CLOSE GAME 作家名:竹本 緒