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レイドリフト・ドラゴンメイド 第20話 優しい雨

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 乗組員の思い出も。
 それらを焼いていた大気圏突入の炎も……。
 巨大なデブリは、たちまち灰となって霧散していく。
 もはや、いかなる殺傷力もないだろう。
【こ の 力は、 あ まり 好き で は ありま せん。
 脳 の 機能 を 使いすぎ て、言 葉 を話すため の部位も ありませ ん。
 いま だっ て、テレ パシー中継 して、もらっても 言葉 を うまく イメ ージできません】
 灰は、もう雲と見分けがつかなくなっていた。
 それを上空で見降ろしながら、舞は元の姿を取り戻していった。

【そ ん な 私 ですが、 楽器 には自信 があり ます。
 ギター。 ピアノ 。バイオリンにフルート。ドラム。
 幼稚園 から、高校 まで、 見つけた 楽 器 は一通り 覚え ました。
 ストリー トダンスも踊れ ます。
 それ の 腕 が よすぎた ためか、1年 生 で す が 、 音楽部 部長 を 務 め させ て い だい て ま す】

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 シエロが聴いた彼女の心の声には、誇りがにじみ出ていた。
 彼女に殺されたチェ連人や3種族はいない。
 そして、音楽部は真脇 達美が属する部でもある。
 舞にも、芸術家としてのプライドがある。
 悲劇があった時、それだけが世界ではないと、誰かの肩を抱くような能力。
 シエロはそれを感じ取った。

(次は、舞に送られたテレパシーの送り主を探ろう。
 ……ノーチアサンとスバル・サンクチュアリの所か)

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 サイガと互いに援護しあえる距離(と言っても数百メートル)に、灰色の超金属がふわりと浮いている。
 ノーチアサン。
 3年B組、水泳部部長。
 当然人間態はあるが、その実態は全長170メートルを誇る、人工知能を搭載した宇宙戦艦。
 地球外の技術で作られ、地球へは傭兵としてやってきた。
 その姿は、地球の海にすみ、強大さとすばやさを兼ね備えた、ホオジロザメを思わせる。
 今、サイガのハリケーンを滑るように飛び、星明りにやわらかく照らされた灰色の装甲。
 それは、成層圏エーロゾルが降らす酸性雨にも痛むことはなかった。
 そして全身を覆うエナジーシールドは、チェ連にはびこるあらゆる兵器を跳ね返した。
 その声は、スピーカー越しに流れる。
『キューボラを叩く、自然の雨音は良い物だ』
 男の声が流れた。喜びの響きがある。
 スピーカーがあるのは、ドーム状に防弾ガラスが並べられた、キューボラの中だ。
 当然、この窓ガラスも地球上の物とは比べ物にならない強度を持つ。
 今も、バケツをひっくり返したような暴風雨が当たっているが、人間の耳には音一つしない。
 だが、機械の耳なら別だ。

 ノーチアサンの背中には、やや大降りの背びれに見える艦橋がある。
 地球の艦船でもそうだが、レーダーや無線機、司令塔が本来の任務だ。
 だが今の艦橋からはレーダーも無線機取り外されている。
 もちろんそれは宇宙の科学技術が込められたもの。
 レーダーは近隣の平行世界まで視界に収める超次元レーダー。
 無線機は光、すなわち電波を超える速さで通信しあえるタキオン通信機。
 しかも、スイッチアに居ながら地球の電波無線ともリンクできる。

 これらが仕舞い込まれ、代わりに後付けされたのが、人一人用のキューボラだ。
【私か、城戸 智慧のための観測室だ。
 なかは、戦闘機のコクピットに似ている。
 パイロットさながらに、全身をベルトでしっかり固定できる】
 だが、彼女の前には戦闘機のような操縦桿もスイッチもない。
『疑似テレパシーは、うまく働いたようだな』
 ノーチアサンへの返事は、力強く、はつらつとした声。
【うむ。あれだけ異能力を使い、しかも高速で飛ばれたら、無事に使える無線機などないからな】
 スバル・サンクチュアリ。
 地下であろうと雲の中だろうと、いかなるものでも見つけ出す透視能力者。
 3年A組。風紀委員長。
 大人びた顔から切れ長の目が喜びで輝く。
 長めの黒髪を毛先に段差をつけたマッシュレイヤー。
 うなじを隠し、前に行くにつれて短くなっていく。
 スバルはその異能の視線を、次の目標に向ける。
【私の目は、雨にも負けず周囲100キロ四方を視ていた。
 そして舞は、その情報をもとに地中竜を蹴散らし、デブリを霧散させた。
 ノーチアサンの疑似テレパシーネットワークは完ぺきだ】

 スバルが右手に収まるジョイスティックを小さく動かすと、イスが回転する。
【見つけた。 レイドリフト四天王の合体したロボット。
 名前は……何といったかな?
 ノーチアサンは、私の視線をキューボラにつけた監視カメラで追っている。
 そして、予備の超次元レーダーで目標を確認し、データベースを探ったはずだ】

『スーパーディスパイズ。
 身長1200メートルを誇る人型拠点制圧ロボット。
 ネットワーク派の切り札ぐらい覚えておけ』

【済まない。
 私は本気でそう思った。
 アメリカ人留学生だった母が、剣術道場で父と出会い、どこに牽かれたのか。
 晴眼。
 はっきり見える目。
 無知は、晴眼の大敵だ】

 目を凝らすと、スーパーディスパイズの巨大さがしっかり見て取れた。
 ノーチアサンが乗りそうな、300メートルはある太い腕。それに並んだ砲塔。
『片腕にレーザー砲2門並んだ砲塔が2つ搭載されている。
 両腕で合計8門。
 他にも――』

【ノーチアサンの説明。もっと聴いていたい。
 だが私の目は、暗闇に覆われた地上の、ある一点にくぎ付けになった。
 住人の手で瓦礫と炎に変えられた、無残な都市、フセン市。
 サイガの暴風が吹き荒れる中、一か所だけ雨が降らない場所がある。
 マトリクス聖王大聖堂。
 かつては壮麗だった巨大建築も、今は崩れ、醜い残骸をさらしている。
 そこから、仲間の生徒会が放つ、携帯電電話の電波が見えた】
 ノーチアサンが興奮する。
『よし。OKが出た。
 これから資材の輸送に入る』
【あそこでは、地球とスイッチアを結ぶかもしれない、美しいことが行われていました。
 ここで言うスイッチアとは、チェ連だけではなく3種族も含める物です。
 エピコス。ペンフレット。あなたたちには見えますか? 】

 ――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

(ああ、見えるよ)
 シエロは不思議に思った。
 今まで地球人を怖がっていた時には理解できなかったことが、今ではすいすい頭に入ってくる。
 鷲矢 武志の表情を見てもそうだ。
 ゴーグルの奥から自分を睨み付ける目。
 マスクの奥から出かかった苛立ち。
 だが、彼にはそれを収める辛抱強さがある。
 シエロはそう信じた。
(彼のサイボーグボディが、私を貫くことはない! )

「あの、鷲矢さん。私の話を聞いてほしい」