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逆光

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 と、鈴木老人が、酩酊しながら、ジョキーを奥さんに捧げて言ったとき、
「みなさん、お世話になりました。厚くお礼申しあげます。ところで、両親には、介護ケア付きのマンションに移ってもらう予定です。その話を佐伯さんにお願いして進めてもらっています」
 と、長男が披露した。これを聞くと、テーブルにどよめきが伝わった。折しも、秋の夕べの庭を照らす逆光に皆の姿が輝いている。
 この夕陽に照らされている人々のなかで、不安と安堵が交差したような複雑な表情を見せていたのは増本と奥さんであった。増本は車椅子に乗っていて、若い女性の看護師に付き添われているので、気分的には落ち着いているのだろうが、これまでの健常な状態にはもう戻らないという確実な障害を抱え込んでいるので、あえて元気にふるまっているらしい様子が却って痛々しい。奥さんの背中からは日頃の看病の疲れが浮き出ている。長男の嫁さんは、テーブルの脇に立って、医師と立ち話をしている。義父の今後の療養の仕方について指導を受けているらしい様子が、言葉の端はしから伝わってくる。片や長男は、椅子にかけている母に仕切りに話しかけている。これは父母が、気持ちよく、東京に転居してくれるように説得しているのであろうか。その時だった。
「名残は尽きませんが、増本君の快癒を祝って、我らが校歌を歌うましょう」
 と、鈴木が佐伯に促すと、佐伯が呼応し、合唱となった。(了)































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作品名:逆光 作家名:佐武寛