ワタシタチ。
同窓会
その日の天気予報は一日中快晴で、
夜の同窓会の頃に満天の星が見えるほどだった。
中学の卒業ぶりに会うクラスの人たちには
内心、会いたくはなかった。
当時一番仲の良かった「よし子ちゃん」とは卒業式の前日に大喧嘩をするし
付き合っていた「岡山くん」には自分のサイン入りのサッカーボールを渡された。
「有名になって、そしたらまた迎えに行くから。」
中学生の私にとってその台詞はかなり重かった。
そして同時に思った。
「待ってられない。」
渡されたサッカーボールを空高く蹴り上げ私は岡山くんを背に校庭を駆けていった。
別れた。
たかが中学生の淡い恋だ。
部活帰りにお互いの生温い手を繋いだりした記憶しかない。
今はもう２５歳というなかなかいい大人なのだ。
付き合っている彼はいないけれど。
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会場の居酒屋に着くともう数人集まっていて
すでに少しだけ飲んでいた。
この年代になればきっと普通なのだろうけれど
左手の薬指に主張しすぎないリングをはめている人たちがやけに目についた。
「お！田中じゃん！」
「..こんばんは。」
当時クラスでも目立つタイプだった遠藤渡(通称：わたるっち)に見つかり
私は向かいの席に誘導され大人しく座った。
「とりあえず生で。」
これを言えば大人の仲間入り、と勝手に思っていた幼い頃のわたしが未だ心の中のどこかにいて毎回言うたびに一人で沁みているのだが
その台詞を言う前にわたるっちに「生１つ」と私の分を頼まれてしまった。
まるで貰ったばかりの臨時収入を全て他人にあげてしまったかのような気分だ。晴れない。
そこで私は気付いた。
当時一番仲の良かった「よし子ちゃん」も、
付き合っていた「岡山くん」もいないのだ。
気になった。
来なかったのはその二人だけだったのだ。
私はフライドポテトを口に含みながら
隣に座っていた当時から黒縁メガネがよく似合う女性であった「林さん」に
こっそり話しかけた。
「いないの岡山くんとよし子ちゃんだけなんだね～。」
「そっか、田中さん遅れてきたから知らないんですね。
あの二人、今日が結婚記念日らしいですよ。」
「...え？」
何それ。聞いてない。
「つ、付き合ってたの？」
「そうらしいです。しかも高校生の頃からずっと。
それで結婚だなんて、本当憧れちゃうなあ～。」
ということは私と別れた後に付き合ったのか。
え？待って、馴れ初めは？
「へえ～..会いたかったなあ。」
なんとなく心臓をぎゅっと握られたような深い痛みを感じた。
何だろう、この気持ち。
私は自分の火照った頬を軽くつねり
クラスで一番美人だった「相川さん」と楽しそうに話をしているわたるっちを睨みつけた
「な、なんだよ。」
「べっつにぃ～～」
もう１０年も前の話だ
今夜は潰れるまで飲もう
だめ、明日早番だった
今はそれどころじゃない..
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良い感じに盛り上がってきたところで
二次会へと移動になった。
席を立ちお店を出てみんなと反対方向に帰ろうとしたら
わたるっちに捕まった。
「行かねえの？二次会。」
「明日はやいんだよね。」
「そっか。頑張れよ。」
そう言った彼の隣には飲みすぎて眠気がきたのか
べったりと寄りかかっている相川さんがいた。
「わたるっちもね！」
帰り道、私はふと思い出した。
あの日、私が空高く蹴り上げたサッカーボールを
拾って彼に返したのは「よし子ちゃん」だった。
だから喧嘩をしたんだ。
「どうしてそんなことをしたの。」
子供だった。
私は彼が大好きだったんだ。
よし子ちゃんはずっと岡山くんに片思いをしていた
それを知りつつ私は付き合っていた。
もしこの同窓会で二人が付き合ってしまったら、と密かに考えていた。
なのに結婚記念日。
今日が結婚記念日なのだ。
私は走ってみんなのもとへ戻り
黒縁メガネがよく似合う「林さん」の腕を掴んだ。
「っ田中さん！？帰ったんじゃ..」
「あのね、」
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ふと夜空を見上げると流れ星をいくつか見かけた。
「願い事しないんですか？」
私の家に泊まってもいい、という条件と共に
林さんと二人きりの二次会の切符を手に入れた私は呟いた。
「わたるっちがうまくいきますように、でも願おうかな。」
「..そうですね。」
林さんときちんと話したのはたぶん文化祭の係の時以来な気がした。
よく見ると可愛い顔をしている。
「林さんって彼氏いるの？」
「いませんよ～。」
「いつから？」
「恥ずかしながら、一度もないんです。」
「うそ！」
「片思いをしているんですけど、
昔も今も、叶いそうにないみたいです。」
いい年をした大人二人が
空に向かって手を合わせている。
私は願い事をこっそり変えた。
林さんはわたるっちに片思いをしていると気付いてしまったからだ。
「なかなかうまくいかないものですね～人生って。」
林さんは眼鏡を外し私のほうを見た。
「あれ？もしかして..」
「もう必要ないみたいです。」
二人で目を合わせて笑い合った。
「さあ～て、どこで飲みますか！」
いつの間にか林さんのほうがノリ気になっている。
時を越え、変わることもあれば変わらない思いもあるのだと感じた。
彼女もきっと今日の同窓会は忘れられないものになったのだろう。
おめでとう、ご結婚。
さようなら、学生時代の儚い恋。
最寄りの駅前で見つけたお店に入ると
高校生くらいの男の子のバイトの子が案内をしてくれた。
「２名様ですか？」
「はい」
「カウンター席でもいいっすか？」
「大丈夫ですよ～」
案内された席は少し汚くて