ワタシタチ。
サマータイム・トラベラー
またこの時期か、と思っていた。
今までそれっぽいような言葉を並べていた友人も彼氏が出来た途端
ふたりの写真ばかりをSNSにあげるようになって
結局あの子も女の子だったな、と肩を落とした
梅雨入りしたばかりの外の世界では
わたしに優しくしてくれない
他に好きな人が出来た訳でも
誰かに別れたほうがいいと言われた訳でもない
わたしたちは合わなかったのだ
たまたま何かの巡り合わせで
たまたま何かのタイミングが全て一致して
恋愛なんて
そんなものでしょう
嘘をつくのが上手なふたりは
嘘をつくのが下手なひとたちのことを
ひどく羨ましく感じる時があった
車窓から見えた踏切で待つ小学生
パステルブルーの錆びれたマンション
不揃いな洗濯物が風になびき
心を少しだけ穏やかにさせた
今日は珍しく天気がいいからね
お別れ日和と言い聞かせ渋谷で降りた
よく待ち合わせをしていた場所
もうふたりでここに来ることは二度とない
人混みからあなたを見つけるのはいつも大変だったんだから
ほら、わたしたちってあまり自分を主張しない方でしょう?
あ!このマグカップお揃いで買ったけど、結局わたしが割っちゃって
街には思い出が転がっていて嫌になる
誰か取って洗って
何事もなかったかのように元の場所に戻して下さい
「次はいつ逢えますか?」
まるで忘れ物みたいに
隠れんぼが得意な真昼の白い月のように
いつでも始まりより終わりが欲しいの
おはようよりおやすみで
いただきますよりごちそうさまで
だけどわたしの勘違いだったみたい
だから
あの日の約束も
帰り際のキスも
優しいあなたの声も
もう見つめ合うことのないあの時間も何もかも全て
この季節に置いていこうと思えた
何にも知らないフリは疲れるし
気付かない態度も愛想笑いも
都合の良い関係がずっと続いていくのも
それはちょっと違うよね
「今度は街で偶然逢いましょう。」
時計の針を進めよう
外はまだこんなにも明るいんだ
スニーカーを脱ぎ捨て
サンダルに履き替え
最後の“お出かけ”を今のふたりでしよう
一瞬の夏が来る前に。
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『サマータイム・トラベラー』/ meluco.