道化師 Ｐａｒｔ 3
「魁斗さん、田所さんってハンサムですよね、頭も良いし、穏やかな話し方だし、恋人とかいないんですか？」
俺が田所に興味を示したのが意外だったのか可笑しそうにしている。
「どうしたの？ワイルドな亮からインテリの田所に乗り換えするの？」
何てことを言うんだと慌てて
「違いますよ。もてそうなのに俺たちに付き合わせて悪いなって思っただけです」
「田所には、ちゃんと恋人いますよ。可愛い子がね」
「可愛い子って、田所さんロリコン？」
「ヒロ、違うって、それ田所に言ったら…」
田所が部屋に入ってきて言葉が途切れ沈黙がなんとも可笑しい。
「私に何を言うんですか？また、良からぬ話をしていましたね」
俺と魁斗さんが笑いを我慢している姿に呆れた顔でいる。
「手当てが済みましたか？帰りますよ、ここに長居するとヒロさんの私のイメージが壊れそうですからね」
その言葉に堪らず二人で吹き出してしまい、田所がため息を零し一括するまで大笑いしていた。俺は益々痛みが増し泣き笑いになっていた。
魁斗さんも一緒かと思って車に乗り込み待っていた。
「ヒロ、これ痛み止めの薬、熱が出たらこれを飲む。傷口の消毒は夜に行くから。今日はお風呂は駄目だからね」
「魁斗さんは、行かないんですか？」
「この後、往診があるからその後に顔を出すよ。明日は、ヒロ学校を休んで俺の病院で頭の方の検査するから。今は頭は痛くない？」
「大丈夫です」
「それなら大丈夫だと思うけど、念の為だから、心配はしなくていいから」
それじゃ無理をしない様にと見送る魁斗さんを残して車は走り出した。
龍成の家に帰り着くと、裕二さんが出迎えてくれた。
「ヒロさん大丈夫ですか？すぐ横になります？」
俺に肩を貸してくれ、心配してくれる。
「抱き抱えられたらいいのだけど、ヒロさん体格いいから無理そうで、すいません。」
「恥ずかしいから出来たとしても遠慮します」
俺たちの会話を後ろを歩いていた田所さんが可笑しそうに小さく笑っている。
廊下の向こうから一人の男性が見え、田所が慌ててその男性の元に歩み寄り、頭を下げている。
「橘さん、只今帰りました。遅くなり申し訳ありません」
「無事帰って来たのなら良かった。傷の具合は大丈夫なのか？」
「はい、思ったより傷口は開いてなかったので、肋骨は折れてしまいましたが、処置は済ませてます。」
その男は、俺たちの所に歩を進めたので田所も後を追う。
「ヒロ君、大したことがなくて良かった。会長が待っておられる。体が辛いようやったら遠慮ぜずに言いなさい。」
「大丈夫です。すぐにでも会いに行きたいと思ってます。」
そうか、ええ子やなと俺の頭を撫ぜてくれた。子供なんだが、すごく気恥ずかしい。
「田所、会長は自室におられる。ヒロ君を連れて行ってあげなさい。裕二、お前にも話があるから一緒に行きなさい」
橘という男はそれだけを言うと俺たちから離れて行った。裕二も田所も姿が見えなくなるまで頭を下げている。何者だろうか？
「田所さん、今の人は？」
「会長の守役をされていた方です」
「凄い人なんですよね？」
「そうですね。会長に小言が言える方ですから」
「龍成を叱れるのはサクヤさんだけだと思ってました」
裕二はまだ緊張が抜けきらない顔で俺の横で静かに話を聞いている。
屋敷の奥に龍成の自室があり、田所がノックをするとサクヤさんがドアを開けてくれた。
「ヒロ、大丈夫？早く座って」
裕二に支えられやっと一息つけた。
「裕二もヒロの隣にどうぞ」
サクヤさんに促され俺の横に座る。
龍成がデスクからソファに書類を持って座る。
「ヒロ、田所から少しだけ聞いた。誰かに押されたのは確かか？」
「俺は故意に押されたと感じてる。龍成さんはどう思う？」
「ミユキの兄貴が絡んでいるかってことだな」
「もし、絡んでいるなら学校の中も安心できないってことになるだろ？」
龍成は、さっき持ってきた書類をテーブルの上に広げ
「この中にその時少しでも見かけたのはいないか？」
八枚程並べられた写真は、どれも俺と同じ制服を着ている。
「これは？」
「あいつの関連会社に親が勤めている子供をピックアップした。どうだ？」
一人気になる、ネクタイが赤だから一年だが、初めて見る顔なのに何故か気になる。
確かではないが念の為その写真を指差す。
「面識はないんだが、気になる。ただそれだけなんだけど」
「無意識に視界に入っていたから、記憶に残るほどではないが、なんとなくって感じかもな」
その写真を田所に渡す。
「田所、そろそろ龍也達を迎えに行く時間だろ。校長に連絡を入れておくからこの少年の学校での様子を聞いて来てくれ」
「わかりました。では、行ってきます」
「田所さん、よろしくお願いします」
俺が頭を下げるとはい、わかってます、任せてくださいと部屋を出て行った。
田所が出て行った後、裕二が一人残され少し居心地が悪そうだ。
「裕二、そんなに緊張するな。難しい仕事を言いつけるつもりはないから安心しろ」
龍成が穏やかな表情で言うので、やっと裕二も肩の力を抜いた。
「送り迎えにお前も同行しろ。何故かヒロばかり狙われるのが気に入らん」
裕二がわかりましたと返事をした時、廊下を走る慌ただしい足音がして、ドアの外からとんでもない内容が伝えられた。
「会長、田所さんが襲撃にあって怪我を」
勢いよく開いたドアに報告に来た若い者は、龍成の怒りの形相に悲鳴を上げそうになった。
「何があった」
「ボーガンらしきもので太腿を撃たれ、今応急処置をしています」
それだけを聞くと裕二に俺と待つように言い、サクヤさんと部屋を出て行った。
田所さんまでが何故狙われるんだ？
あの男の目的は何なんだ？
作品名：道化師 Ｐａｒｔ 3 作家名：友紀