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日常的侵蝕風景:01

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『しろいやわらかい
 くも    くも
   でぐち
    ない
   にがして』

…アタマがまとまらない。
急ぎ、これだけは言える。

なにか高次的なものからの霊感や虫の知らせ、
そういったものを振り切ってまで好奇心を満たしてはいけない、と。

『しろいやわらかい   『ここはどこ      『たすけて
   くも           にげる        めいろ
 むし            くらい
   ぷよぷよの       くるしい』       た す け て』
 いたい』

脳髄は人間の中の迷宮であるという観点から

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(クリック。)

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友人Kが死んだ。
平日の真昼間に自室の窓から飛び降りたそうだ。

友人といっても同じクラスにいて、時々しゃべったり、時々はいっしょに飯を食ったり、
時々みんなでわっとカラオケにでも行く、というぐらいの仲だ。…だった。
それでもそいつの中ではオレは「親友」カテゴリであったらしく、
葬式のあと、オレはKのおふくろさんに呼び止められた。
「……くん、来てくれてありがとうね」
真っ赤に泣きはらしたおふくろさんの目には、流石に疲労の色が濃かった。

「いつもあなたのこと話してたわ。面白くていいやつだって」
Kの家は何度か来たことがあった。
結構な金持ちらしく、広いリビングに広い庭。飼ってる犬が2匹。
「どうしてあんなことになったのかしらね…」
そんなことは誰にもわからない。
誰しも自分の脳ミソの中になにかそういう爆薬を持っている。
他への暴力、自己への暴力、あるいはもっと高尚でゲージツ的な衝動。
それがうっかり「爆発」、いや、「暴発」してしまったんだろう。
…さすがに母親を前にしてそうは言えなかったが。
オレがどう返事しようかと考えあぐねていると、
おふくろさんはオレをKの部屋へ案内してくれた。

8畳ほどの部屋は今までKがいたかのような、不思議な存在感にあふれていた。
決して散らかしているとかそういうのではなく、
なんというか、
ドアを開けるまで誰かが「待って」いた
ような。
「Kの形見分けをしようと思ったんだけど、どれもこれも手がつけられなくて…
お好きなものがあったら、この部屋の中のものなんでも持っていってくださる?」
さっきも言ったが、Kの家はぶっちゃけ裕福だ。
オレは何回「K、いいなあ、おまえ」とため息混じりに言ったことだろう。
マンガ、そうでない本、CDにゲーム……PC。
ゲームを貸してもらっても俺の古いPCでは動かなかったりして、
時々ここに来て遊ばせてもらってたっけ。
「パソコンでもいいのよ?おばさん使えないから、使ってくれる人がいれば有難いわ」
はしたないが、これはラッキーだ、と思った。
「いいんですか?」
「ええ」
…こうして、図らずもオレはかなりいいPCをロハで手に入れてしまった。

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待つ。
動き始めるのは、相手が自フィールド内に入ってきた、と察知してから。
ゆるゆると追って勝手に走らせて焦らせて追い詰めて、

ほら、
   いき
 どまり
 。

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いくら死んだやつのとはいえ、他人のPCをそのまま使うってのはさすがにヤバい。
個人ジョーホーなんとか、とかあるだろうし、ウィルスなんか入ってたら洒落にならない。
幸い、Kは几帳面なほうだったから、付属のCDやソフトはひとまとめにしてダンボールに入っていた。
PCの中身と外側をすっかりクリーンにしてセットアップして、自分のHDDの中身を移すのにまる2日。
「っしゃ!コンプリート!多分!」
どうにか設定を済ませて再起動し、試しにネットにつないでみた。
回線速度はさすがにいかんともしがたいが、やっぱこう、違う。いろいろと。
あちこちのサイトをひとまわり回って、ゲームでもしようか、と思ったとき、
ブックマークの一番下に、に不自然な空白部分ができているのに気が付いた。
「おかしいな。インポートがうまくいかなかったかな」
どこかのサイトの表示が狂ったんだろう、ぐらいに考えて、クリックしてみる。
…すぐに現れたのは、薄灰色のもやがふわふわと動いているような画面だった。
アドレス表示は空白になっている。
真ん中に小さな小さな四角の画像があって、それきりだ。
どうやら、この画像がENTERらしい。
ひどくいやな感じのするサイトだ、と思った。
なんとも言いようがないが、不安…予感…生理的嫌悪…そういったものがぐるぐると渦巻いている。
だがその一方で、このサイトをどうしても見たいという欲求がふつふつと湧き上がってくる。
(今すぐ閉じろ!ブックマークも履歴も消してしまえ)
(もう2度と来れないかも知れないぞ。ちょっと見てからでもいいだろう)

「…見てみようかな」
好奇心が勝った。…あるいは、誘惑に負けた。
カーソルを小さな画像に苦労して合わせて、

クリック。

すっと靄色の背景が消え、真っ黒な背景が現れた。
…いや、黒じゃない。これは藍色だ。深い深い深い海の底の色。
ゆらゆらと水のような模様が揺れ、ときおり岩の影がそれとわかるかわからない程度に動く。
ただそれだけだ。
そして、画面の中央にはさっきと同じ小さな画像が、ふたつ。
「…ちっ」
オレは舌打ちをして、ちょっと悩んでから左側の画像を

クリック。

コンクリートの無骨な階段があらわれた。
デパートの非常階段みたいな、薄暗くてさびしい階段。
その階段の画像が、ゆっくりゆっくりと自分が昇るように動いている。
「ゲームサイト…じゃないみたいだな」
ジョークサイトかウイルスだろうか。
だが、アンチウイルスのアラートは表示されない。
もう少し、もう少し進んでみよう。
なにかあったとしても、最後に血まみれの女が画面いっぱいに出てきてギャーッて叫ぶ程度だろう。
流石に夜中にそれは迷惑かも知れないと、オレはヘッドホンを繋いだ。
……こつこつと階段を昇る足音に、いつのまにかこそ、こそ、と紙を踏むような音が混じっているのに気づく。
ノイズかな?
しばらくすると、非常口のような扉が現れた。
その真ん中に、さっきの四角い画像が、ふたつ。
ど、ち、ら、に、し、よ、う、か、な…
…よし、右。

クリック。

次に現れたのは、目がどうかなるかと思うほどの紅蓮の炎。
ごうごうと音をたてる劫火の中、四角いシルエットは建物だろうか。
人間のようなたくさんの黒い影が、まるで逃げ惑うように現れては消え、現れては消え…
ちりり、とこめかみのあたりで音がした。
まるでディスプレイの中の炎が、本当にオレの髪を焼いたみたいだった。
作品名:日常的侵蝕風景:01 作家名:SAGARA