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白々しい夜

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閃光が辺りを貫いて視界を真っ白に照らし出す。ちかちかと目障りな点滅にどうしたものかと悩み出せば、低く唸り出した雷鳴に思わず肩を竦めていた。


「お待たせ」
「…よせ、気色悪い」
「何だよジョークも分からないのか?」
「ジョーク?お前のジョークなんて一生分からなくて良い」


午前二時。運転席のドアが開き、滑り込むように奴が乗り込んだ。俺をからかうそいつの顔面は、フロントガラスに打ち付ける雨の粒がタトゥーの如く影を浮かべている。目尻から頬、顎にかけてつうと滑り落ちる水滴がまるで涙のようだなんて、この場に不似合いな空想が頭に浮かんでは消えてゆく。
シートベルトを締めた俺を見て、少しだけ奴が黙り込んだ。今日と明日の境目まで残すところあと二十数分か。デジタルの示した時だけが益々憂鬱を連れて来る。取り分け雨が嫌いだとか轟く雷鳴が嫌いだとかそんなつもりはないにせよ、今夜ばかりは話が別だ。いや、寧ろこれだけははっきり言える。雨なんて糞だ、糞食らえだ。ひしひしと募る苛立ちがやがて溜め息へと変わるのをしかめっ面で誤魔化した。そうして口を噤んでやれば、俺の憂鬱と相反し奴は上機嫌のようだった。


「それにしても酷い雨だな」
「…」
「見ろよ、ちょっと出ただけでびしょ濡れだ」


そうだ、雨と言えば昔見たアニメを覚えてるか?ピンクの犬とその飼い主がどしゃ降りの中でシャンプーしてただろ、今日みたいな酷い嵐の夜さ。帰ったらソッコー試してみるか。そう言って愉快そうに笑う奴は、いい加減口を噤めば良い。
聴こえるのは雷と雨の音。騒がしいそれらよりも取り敢えず、この面倒なやり取りをどうやって終わらせれば良いのかなんて、俺は真剣に考える。そうして考えに考え抜いた挙げ句、思い付いた解決策はオーディオのスイッチを探すことで。


「電源は」
「四角いボタン」
「どれだ」
「左上を探せば分かる」


ぴしゃりと白飛びした視界の中で辛うじてボタンは見つかった。手探りでボタンを押してやれば、聴き慣れない女の声がぺらぺらとフランス語を喋り出す。どうやら俺は誤ってラジオをつけてしまったらしく、思わず舌打ちが口を衝いた。


「で、どの家に帰るんだ?」
「は?」
「だから、どの家に帰るんだよ」


今更何を聞くのかと一瞬耳を疑った。足のない俺の送迎に他のヤツを差し置いて我先にと名乗りを挙げた奴が、これから向かう家を知らないとは間抜け過ぎる。珍しく言葉の通じる会話ができたと思ったら、すぐさまこれだ。ふざけてやがる。流石にこいつの脳味噌に馬鹿かと問うてみたくなる。
が、真新しい煙草のパッケージを難なく開けたそいつの指が一本のフィルタを摘み出したのを、俺は目敏く追っていた。一本よこせと口を開きかけると、それとなく投げてよこされる。


「噂の女社長の豪邸か?それともママさんの家か?」
「俺の家は一つだが」
「こないだのいきずり女の家もあるな」
「黙れ。いいな、口を閉じろ。くだらない冗談はうんざりなんだよ。さっさと車を走らせろ。お前が送りたいと言ったからわざわざ乗ってやってんだ。いいな?まずはキーを回せ。ブレーキを下ろすのを忘れるな、そしたら右足はアクセルだ。早く、そうだ。前を向け。ハンドルから手を離すなよ」




作品名:白々しい夜 作家名:machiruda