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わたなべめぐみ
わたなべめぐみ
novelistID. 54639
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~そのまえ~(湊人過去編)

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 理由のわからない苛立ちを感じながら去っていく彼らの姿を見ていると、不意に彼女が顔を上げて言った。

「あの……坂井くん、また聞きにきてもええ?」
「……オレはかまわないけど」
 
 噴き出してきそうになる感情を飲み込んでそう口にする。すると彼女はメガネの中にある瞳をゆるめて笑った。

「ありがとう。じゃあまた明日」

 ポニーテールをひるがえして階段を駆け下りようとする彼女の腕を、湊人はとっさにつかんだ。

「どうしたん?」

 大きな瞳を輝かせて、彼女がそう言う。湊人は手を伸ばして彼女の髪に触れた。

「桜、ついてる」
「あ……ありがとう」

 こげ茶色の髪についた薄桃色の花びらをつまむと、彼女はふわりと微笑んだ。湊人は心臓が収縮するのを感じながら、花びらを手の中に収める。

 勢いよく階段を下りていく彼女の背中を見ながら、明日のために何の曲を用意しておこうか考えた。

 セッションのためでなく、社会科準備室の住人のために、世界史の老教師のために、彼女のために、そして自分のために弾く曲を考えよう――

 そう思うと、不思議と心の重みが取れて、今までよりももっとピアノが好きになれる気がした。
 地上で桜の花びらが舞い上がる。あの花びらの数だけ、きっと音楽を生み出してゆける。



 湊人と悠里がライブを共にするのは、まだもう少し先のお話――


(おわり)