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白と黒の天使 Part 4

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頷く俺に東野さんだけでなく他のスタッフさんたちも笑顔を向けてくれる。
撮影は順調に進み、予定より少しばかり早く終わった。
僕は予め行きたい所があり、1日だけ自由な時間を貰っていた。
「御坂、お前明日はどこに行くんだ?」
『知り合いのお墓参りに行かせてもらおうと思ってます』
僕はメモに書き東野さんに渡した。
「俺の車で行くか?」
僕はそんな迷惑かけられないと慌てて首を横に振った。そこまではバスを利用しようと思っていたから、下調べもしている。
でも、予定より一日早く終わったから暇だと言われ、甘えてやれと、他のスタッフから囃し立てられるやら、僕が甘えさせて貰うのにと、頬を膨らませてしまい、皆に笑われてしまった。
結局東野さんの運転する車の助手席に僕はいる。

東野さんには知り合いと言ったが、一度も向かい合う事の出来なかった相手。
話しがしたかった、謝りたかった、愁も父も僕のせいではないと言うけれど、それでも僕にも罪はあったはず。
あの事件から半年ほどたったころ、父から仁田が病院で自殺したことを知らされた。僕は、仁田の人生を奪ってしまったのだと、泣いても何も変わらないと解っていても辛くて悲しくて涙が流れて、答えを見つけることの出来ないまま、あんなに辛く悲しかった心が日常の生活に押し流され家族に笑顔を向けていた。
醜い自分が嫌になりながらも、まわりにこれ以上心配はと笑い続ける。

奈良に撮影と聞き、仁田に会うことを考えた。会うと言っても顔を見て話す事もかなわない相手だけど。

駐車場に車を止め僕たちは少しの距離を歩いた。
「御坂、俺は仏像と語り合ってくるからお前はゆっくり心の整理をしてこいな」

(東野さんは僕が何をしに来たか知っている、どうして?)

目を見開き見つめる僕に東野の大きな手が頭をポンポンと叩き、大丈夫だからと笑っている。

頷いた僕は泣いていた。自分では大丈夫だと平気な顔をしていたが不安で仕方なかった。優しい言葉と大きな手は僕の緊張を解し、勇気をくれる。

ここに向かう途中で買った花を抱え一人石階段を上がる。寺の人を見つけ尋ねる言葉を紙に書き渡すと案内してくれる。その人の後ろを付いていきながら、話す言葉に耳を傾ける。
「先客がいらっしゃいますよ、ほら、あそこに佇んでいらしゃる所です。私はこれで」
そう言い残すと頭を下げ来た道を戻っていった。僕も頭を下げ少し去っていく後姿を眺めていた。

振り返り足を進める。墓の前に佇んでいたのは佐々木だった。愁が佐々木に手をかけたその後一度話をした。佐々木は付き物が落ちたように穏やかな、でも少し寂しそうな、悲しそうな表情を見せ僕に済まないとぽろぽろと涙を零していた。

佐々木の横に立つ僕に気づいた佐々木が僕を見上げ、驚きの顔がくしゃりと崩れ、泣き笑いの顔になった。
「ありがとう」
礼を言われるようなことはしていないけど、僕も笑顔を向ける。

立ち上がった佐々木は少し後ろに下がり僕に場所を開けてくれた。花を置き手を合わせる。
(ごめんなさい、僕は君の人生を奪ってしまった。何を償えばいいかわからないけど、僕は君の事を忘れない。死ぬまでこの罪を背負っていくから、安らかでいて・・・ほしい)

佐々木と並び石階段を下りる。言葉を交わすこともなく静かに、でも、僕たちを纏う空気は穏やかなものだった。

石階段をゆっくり並び降りて行く僕達、佐々木がポンと僕の肩を叩いて立ち止まる。
僕も何?って感じで立ち止まり佐々木を見ると、恥ずかしそうに手話でこの後時間あるか?と。
僕は、その内容より佐々木が手話が出来ることに驚いていた。
『どうして?手話……』
僕も手を動かす。
『お前が話せなくなったと聞いた後、もう一度話したくて、覚えた』
『ありがとう』
『何でお前が礼を言うんだ?』
『だって、僕と話したいって、また会いたいと思ってくれたから、嬉しくて。僕は君や仁田にビドイ事したから』
『お前が悪い訳じゃないだろ、俺の方がビドイ事したのに』
僕はそんな事ないと首を横に振り
『僕は仁田の人生を奪ったのに』
『違うだろ!お前が奪ったんじゃない!仁田自身が捨てたんだ』
『佐々木にも僕は……』
『お前は全部自分で背負うつもりか?半分俺にも寄越せよ。俺たち二人で半分ずつ、いいな』
そう言って僕の背中に手をかけ、また階段を二人で降りて行く。僕は佐々木の気持ちが嬉しくて涙が溢れて足元ばかり見ていた。
「俺は普通に話せば良かったんだな、聞く事は出来るんだから。俺も抜けてるな」
そんな事を言い、笑い出した。
「御坂、さっきの質問の答えは?」
(質問?何だったかな…)
首を傾げた僕に
「この後、時間あるか?一緒に飯はどうだ?」
僕は、見開いた濡れた瞼を笑顔に変え頷いた。
「俺の店、この近くなんだ。俺の手料理でいいか?」
『佐々木の店?』
「叔父の店を手伝うようになったんだ。ここなら仁田にも合えるしな」
『そうだね、僕もまた来てもいい?』
「その時は一緒に行こうな」

佐々木の店はこじんまりとした喫茶店だった。軽食しか出してないけどと言いながらも洋定食もメニューにはあるしデザート系もあった。
店の隅にピアノが置かれていたり、観葉植物の緑が店を穏やかな雰囲気に貢献している。
『素敵なお店だね』
「そうか、随分と古い店だろ、パスタでいいか?」
頷くと手際よく調理を始めた。
僕が店をきょろきょろと見渡していると壁にある一枚の写真に目が留まった。
カウンターをトントンと叩き、佐々木の注意を自分に向けさせた僕は、壁の写真を指差し
『あの写真、僕の師匠の写真だよ!』
驚いている僕を佐々木はにこやかに頷き
「光一さんから貰ったんだ、店に飾れる写真がほしいと言ったらあれをね。いいだろう、誰の所にも陽は昇り、時は流れていくって、前向かっていけよって、立ち止まっても自分の心の中の時間だけ止まるだけで取り巻く時間は動き続けるんだから。取り残されて辛くなるのは自分だけだって」

夜明けの瞬間、闇と光が交差するような不思議な空間、僕も好きだと目の前にパスタが置かれるまで眺めていた。

「御坂は光一さんと一緒に仕事をしてるのか?」
『手伝いとか、バイトをさせてもらってる。今は、大学生。』
「こっちの大学なのか?」
『ううん、今日は撮影のバイトでこっちに来たから。どうしてもここに来たくて一日休みをもらったんだ』
アッと急に立ち上がったてバタバタと鞄の中を掻き回している僕は焦っていた。
「御坂、どうしたんだ?」
『お寺に置いてきちゃった!』
泣きそうな顔で手を動かす僕に
「何を忘れたんだ?すぐにいるもんじゃないなら後で俺が取りに行ってやろうか?」
僕が首を横に振りまた鞄の中に手を突っ込んでいる。
「そんなに大事なものか?走って取ってきてやるよ」
僕は携帯を探していた、東野にメールをする為に。
『お寺まで連れて来て貰ったカメラマンの東野さんを忘れてきちゃった』
佐々木ははぁ?と呆れたと大きな溜息をつき、カウンターに置いてある僕の携帯をコツコツ叩き、早く連絡しろと、俺が話すからと言ってくれた。