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どうして・・・

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そして、走り去りながらまた明日ねと消えて行った。
シャギは、何故ウサギが僕を構うのかわからなかった。
あまりにも僕が情けないから揶揄って遊んでいるのだろうか?
疲れた、洞に帰ろう。今の僕の寝床だから。
走り出そうとした時、何か気配を感じ、身を潜めた。
あれは、何だ。大きなネズミの様な猫の様な生き物。じりじりと近づく。僕の中で何かが行けと叫ぶ。
僕は獲物を咥えていた。
空腹を少し満たし、眠った。初めて成功した狩り、どうやって追いかけ、捕らえたのかよく覚えていない。頭ではなく体が動いていた。
次の日もその次の日もウサギは僕の前に現れ、揶揄い追いかけっこが始まった。僕の走りは格段と早く、鋭さを増していく。
でも、まだウサギの方が一枚も二枚も上手。
そして、初めてウサギの体を微かに爪が擦ったような気がして意識が緩み、僕の体は勢いに乗ったまま転がり木に激突していた。
「まだまだね。可愛い子。早く私を捕まえてごらん」
「何故、僕を揶揄うの?」
「揶揄う…?揶揄ってなんかいないわ。ひとりぼっちの可愛い子。私と同じ」
「僕は可愛くなんかない。父さんに捨てられた、出来損ないの醜い子だ」
もう、僕はウサギを捕まえようとは思わなかった。
「出来損ないなんかじゃないわよ。ちょっとだけ、未熟なだけよ」
「嘘だ」
「さっきは危なかったもの、貴方の爪が当たったわ、血が滲んでる」
「あっ、ごめん。痛い?ごめんね。舐めようか?」
何故そんな事を言ったのかわからない。でも、癒したいと思ってしまった。
「あら、可笑しな子。私は貴方の獲物よ。傷を治してどうするの?優しい子」
「でも……」
「大丈夫よ、これぐらい。もう、お家に帰りなさい」
ウサギが走り去って行くのがわかった。
その夜以降ウサギは現れなかった。
僕は、一人で狩りもできるようになっていた。
風の力を借り、匂いを嗅ぎ分け、自分の匂い気配を消す。
木々のざわめきを利用し、獲物に近づく。
そして、一人体を丸め休む時、ウサギの事を思い出す。
僕の事を可愛い子という優しい声音を。今の自分がいるのはウサギのおかげだと思う。
どうしてるだろう、あの時傷は治っただろうか?
狩る者、狩られる者のはずなのに僕はウサギを獲物としてではなく、もっとみじかな母の様な温もりを感じていた。会いたいな、こんなに狩りも上手くなったよと自慢したい。そして、褒めて欲しかった。

そんな事をシャギが考えていた頃、ウサギも遠くで上手く走れるようになったかしら?一人でも狩りができるようになったかしら?と思っていた。
ウサギは、シャギの群れに自分の子供たちを殺され、悲しくてたまらなかった。そんな時、大きな木の洞で蹲り泣きながら母を求めるシャギを見つけた。
子供を無くした母の思いが、母を求めるシャギの悲しさとシンクロしたのかもしれない。ウサギはこのままだとこの子は死んでしまう。て助けてあげなければと思ってしまった。もし、この子に捕まってもいいと、この子の生きる糧になるのならと。
そして、二人の追いかけっこが始まった。
そして、最後の日ウサギの体に傷を作ったシャギから優しい労わりの言葉に、このままでは駄目だと優しすぎるシャギ。私を獲物として捕らえ食らうぐらいの強さがなければ。

シャギの体も顔付きも、もう子供のものではなかった。左足は奇形を補うように力強い筋肉に覆われ、矢のように早く風のように滑らかに獲物を感じ、追い、捕らえる。
鋭い視線は竦ませるほど鋭く、唸る声は低く地を這う。
成長したシャギだったが、ひとりぼっちのままだった。
ある寒い雪の降る夜。シャギは獲物の気配を求めていた。
そして、真っ白の雪中に獲物を見つけ駆け出した。疎らになった木々、を抜け、その先に広がる真っ白の平地。追いつき押さえ込み爪を立てる。白い雪が血に染まり獲物を見たシャギは固まった。
「何をしているの?早く息の根を、私を喰らいなさい。それが、貴方が生きていかなければいけない道。躊躇していては生きていけないのよ。私を貴方の血に肉に生きる糧にしなさい」
シャギは泣きながらウサギを生きる糧にした。それが、ウサギの望み、僕が生きる為の試練。

どうしてこんなに悲しいのだろう。
いつかこの悲しみは消えるだろうか。記憶が薄れ、ウサギの事も忘れ、本能のままに生きるとしても、その心の片隅に悲しみと感謝があり続けていると信じたい。
作品名:どうして・・・ 作家名:友紀