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道化師 Part 2

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射水と二人になると緊張する。ハンドルを巧みに操る横顔が、かっこよく思わず見とれてしまう。
「ヒロ、そんな熱い目で見るな。俺は、お前の事気に入ってる事忘れるな。襲うぞ」
俺はこんな男になれるだろうか?大切な人を守れる男に。
「早く大人になりたい・・・」ぼそりと呟く俺の声に苦笑いで返される。
「ゆっくりなればいい。急いで大人になってもいい事なんてないぞ」
そうだろうか?守られるばかりは嫌だ。
「守られるばかりは嫌か?」
心を見透かされたようで居心地が悪い。
「ヒロが子供だから、俺たちは守っているわけじゃないぜ。仲間だから守るし、守られる。それを恥ずかしいとは、俺は思わない。人間なんて大人だろうが弱いもんだ」
「射水さん、優しかったんだ。木島さんよりも大人だ」
「亮から俺に乗り換えるか?」
考え込むふりをするが、やはり、俺は誰かを選べと言われたら木島を選ぶだろう。
「お前、亮しか選ばないって顔してるぞ。どこがいいんだ?」
どこがと聞かれても言葉に出来ない感覚。
「どこだろう?木島さんは親父の様な兄の様な……なんだろう?自分でもよくわからない。ただ、あの腕の中は落ち着く」
射水が微かに笑い
「親鳥と雛の関係、刷り込みだな。俺の腕の中も試してみるか?」
「止めておく。俺ではサクヤさんみたいに貴方の背中は守れないから」
本気の相手を見つけたらお前も変わるさと頭を撫ぜられた。
マンションの前でいいと言ったのに、部屋まで行くと駐車場に車を止めた。気づかなかったが、射水のボディガードの車がすぐ隣りと少し離れた所に止まった。
俺と射水、そしてもう一人エレベーターに乗り込んだ。
珈琲を飲ませてくれと言う射水を部屋にあげ
「どの豆でもOK?」
「薄めのあるか?」
「ガテマラは?」
「それ頼む、何種類の豆ストックしてるんだ?」
カウンターに腰掛けキッチンで豆を挽く俺を見ている。
「6種ぐらいかな」
「おい、高校生が珈琲に拘り持つなんか10年早い」
呆れたと肩を竦める。
「俺は、飲まない。木島さんやサクヤさんが来たときに飲むから。あの二人煩いだろ珈琲の事。サクヤさん煩く言わないか?」
「珈琲はサクヤしか入れないからな。俺が入れたら、あいつ飲まないかもな」
それはあり得ると二人で笑っていた。
「なぁ、ヒロ、俺の事、龍成と呼べ。仲間に射水と呼ばわれると、ムズムズして居心地が悪い」
「呼捨てなんて無理。龍成さんでもいいなら?」
珈琲を龍成の前に置き、キッチンを出て隣りに座った。
「亮の事は名前で読んでないな。何故だ?」
俺の顔がみるみる赤くなる。
「お前、可愛いな」
俺の頭を抱き込み
「亮が駄目だって言ったか?」
苦しくなり、胸から顔をずらし
「亮さんが、抱いてる時の俺を思い出してムラムラするって」
声を出して笑っている振動が伝わってきて、どんな顔で笑っているのか見たくて顔をあげた俺の唇を塞がれ、口を閉じる間もなく舌が口腔内を犯していく。逃げる舌を巧みに絡め取り弱い所を見つけては責められる。龍成は体重を預けグッタリとした俺の体を抱きしめ、耳を甘噛みしながら「ご馳走様」と一言いい離れた。
龍成が帰った後、俺の火照りは納まらずキスを思い出しながら、
一人自慰をする羽目になり、ウダウダと考え込む事もなく眠ってしまっていた。

パーティーが開催される日、龍成とサクヤが正装で来た。
二人ともかっこいい。見惚れていると、木島が後から入ってきた。
「おい、ヒロ。そんな熱い目で見るな」
文句を言う木島はガードマンの格好をしていた。
「亮さん、その格好……」
凄い似合っていてゾクゾクする。
思わず下の名前で読んでしまい龍成さんがニヤリと笑う。
「亮、ヒロの亮さんに欲情するなよ」
「ヒロ、お前、こいつに何話してんだ」
珍しく慌てる木島にサクヤさんが、何、何と興味を示し、龍成さんが
「ヒロに亮さんって呼ばれると亮はムラムラするんだと」
なぁ~ヒロと話を振られ、俺は逃げ出したくなったが、他愛ないやりとりは和やかな雰囲気で俺の緊張をほぐしていく。
龍成さんとサクヤさんは夜からなのに来てくれ、亮は、今日はガードマンとして働く、学生の頃を思い出すと笑って、こっそり触れるだけのキスをする。そして、3人は、笑顔のまま遊びに行って来るみたいに軽く手をあげ出て行った。

俺は、部屋の片付けをし、洗濯、買い物、日常の生活を淡々とこなして皆の帰りを待った。
一日が終わろうとしている。
もう、やる事がない。
日付けが変わるのに、誰も帰ってこない。
家族も笑顔で行って来ると行って出て行った。そして、俺は一人になった。もう、一人になるのは怖い。
俺を置き去りにしないでほしい。

いつの間にか眠ってしまっていた。
「ヒロ、帰ったぞ。泣いてたのか?バカだな、お前を一人にしないからもう泣くな」
優しく髪を触られて、頬に柔らかい感触。
「亮さん、おかえり……」
亮の声とキスに安堵し、寝惚けたまま首にしがみついた。
「ヒロ、目を覚ませ。ミユキも帰ってきたから」
ミユキ……意識が少しずつ浮上してきた俺の目の前に亮の顔があり、焦って飛び退いた。
「亮さんごめん」
「ヒロくん、ただいま」
鷺沼さんがミユキを抱え立っていた。
「お、お、かえりなさい」
鷺沼さんの腕の中、毛布に包まれたミユキはグッタリとしていた。
「ミユキ……」駆け寄り頬に触れる。暖かい、良かった。
「ヒロくんのベットに寝かせるよ。薬が効いて眠っているだけだから大丈夫。明日には目を覚ますから。何かスエットでも、パジャマでもあったら持って来て」
ミユキを抱え寝室に向かう鷺沼の後をクローゼットからスエットの上下を鷲掴み部屋に入る。
「着替え、俺も手伝うよ?」
「ありがとう、ズボン履かせてあげて」
下着だけの姿に、足首と手首に擦過傷と痣、首にも締められたような痣もある。
俺が終わると鷺沼さんが上を着せるのにミユキの体を横にした。背中の傷はまだ治りきってなく、新たな切り傷が幾つも赤い筋を作っていた。
俺が息を飲む気配に
「ヒロくん、亮に珈琲入れてあげて。それと、湿布貼るの手伝ってあげて」
えっ、亮さんが怪我……
部屋を飛び出した。
「そんなとこにない!取って来るから座ってろ!」
上半身裸で湿布薬を探す亮に苛立ちをぶつけ、急いで洗面台棚から救急箱を取り戻った。

「赤くなってる。この紫になってるの骨大丈夫なのか?」
「息すると少し痛いな。ヒビが入ったかもな」
「何やってんだよ、馬鹿野郎。怪我なんてして帰ってくるな」
「バカ、これぐらい舐めときゃ治る。泣くな、キスをしたくなる」
「怪我人が何言ってやがる。大人しくしてろ。鷺沼さんに言いつけるぞ」
降参と手をあげ俺に湿布薬を大人しく貼られていた亮はため息をつく。
「ヒロ、遅くなってすまん。泣き寝するほど心配だったか?」
「心配なんかしない、信じてる。頭ではわかってるんだ、父さんたちも笑顔で出て行ったのに、帰って来た時にはもうそこには家族の笑顔がなかったから、信じていても不安になる」
作品名:道化師 Part 2 作家名:友紀