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幻燈館殺人事件 後篇

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「この十年は当主代行の奇咲蝶子が決めていたので、足利麗子はそれが気に入らなかったようですよ。何かと難癖を付けて乗り込んでいるのだとか」と皆川が補足する。
「確かに奇咲蝶子もそう言っていたが、奇咲蝶子も足利麗子も被害者ではないからな。ただ、乗り込んでくる足利麗子を門前払いに出来ていないところを見ると、聞こえてくるほどの強権は無さそうだ」
 九条は絶対。随所で耳にしたその常套句は、先の追及を許さないものだった。
 三人は一旦ここで話を打ち切り、遺体を引き取りにやってくる足利家の一同を迎える準備を始めた。準備といっても、駐在所内の生活感を隠し自分たちの身なりを整える程度のものだ。
 引き取りに現れたのは、女一人と男四人の五人だけだった。五人ともに決して若いと言える年齢ではない。
 赤碕と女が二言三言の言葉を交わし、四人の男は女のお願いしますの一言を聞いてからのそのそと棺を運びだした。
「あれは誰だ?」
 蜂須賀は赤碕にそっと耳打ちする。
「足利家の使用人の一人ですよ。知っている顔です」
「足利麗子が来るとばかり思っていたが」
「昨夕から床に伏せっているそうです」
「なるほど。無理もない」
 棺を載せた大八車はガタゴトと乾いた音を立てながら去っていった。
「まだ何も解決していませんが、一つ肩の荷が降りました」
 赤碕は感慨深げにそう言った。
 名実共に生活共同体である山村では、警察の出番はほとんどない。特に九利壬津村では何か問題が起きても、例えば暴力沙汰が発生しても、四家が解決してしまう。平たく言えば、被害届が提出されないのだ。
「さぁ、蛍さんを迎えに行きましょうか」
 蜂須賀と皆川は互いに顔を見合った。
「遺体が怖くて駐在所にいたくなかったのだから、何の問題もありません。殺人犯が潜んでいるかもしれない村内に独りにおくのは危険すぎます」
「赤碕。我々は捜査で駐在所を留守にすることも多い。宿の人と一緒にいた方が安全だ」
 すかさず皆川が説得に入ったが、宿でも独りになることはある、殺人犯が駐在所に乗り込むことなど有り得ない、と堂々巡りになった。
 蜂須賀は二人のやりとりをしばらく見守っていたが、赤碕の肩に腕を掛けると、ぐい、と引き寄せた。
「坂上蛍に惚れたか」
「なな、なにを言われますか!」
「惚れた女にいいところを見せてぇ気持ちは分かるぜ」
「そのようなし、し、下心はありません」
「隠すな。彼女を安心させてやりてぇってのなら、一刻も早く花明を見つけることだ。分かるだろ?」
「は、はい!」
「よし。なら熱い茶でも飲みながら今後の方針について話し合おうじゃねぇか」
「わっかりました!」
 赤碕は小走りに駐在所に駆け込んだ。
「お見事です」
 皆川は心底感心していた。
「押して駄目なら引く。右が駄目なら左から攻める。基本だろ」
「別人のような口調であったのこともですか?」
「いや」
 蜂須賀はきっぱりと否定する。
「あれは素に戻っただけだ」

作品名:幻燈館殺人事件 後篇 作家名:村崎右近