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あまり乗り気ではなかったが、学校の方針が変わって生徒は運動系か文化系のいずれかの部活をするように変わったので、鈴木は卓球部に所属することにした。顧問も三年生になって入部してきた数人の生徒は大会に出て活躍させようとは最初から思っていないようで、あまり厳しいことは言わなかった。

いつもは男女部員それぞれ別行動をしているが、一緒に部活が始まった。軽いストレッチや素振りを少しやってから顧問の大橋教諭が皆を集めて告げた。
「今日は、女子の卓球部から練習試合の申し込みがあったので、おい、鈴木おまえが最初だ」

「えっ、オレ?」鈴木は戸惑いながらも卓球台の前に立った。

「女子は石川」

石川は気の強そうな顔をした小柄な女子部員だった。二年生の彼女は女子部員の中で大会にも出ている中堅の選手だった。石川が気合い十分の顔をして鈴木に相対した。

鈴木は少し緊張しながら台の向こう側の小さな女子部員を見た。あ、可愛いなと思っていると彼女のサーブ球がネットを越えてくる。鈴木にはごく普通の球に見えたので軽く返せると思った。球がラケットに当たる少し濁ったような音がして、球は予想外の方へとんでいった。

石川は自分のサーブの威力を確認して、少しの余裕とポイントをとった喜びに頬に笑みを浮かべた。相手が成りゆきで卓球部に入ったことも知っていたし、対男子とはいえ負けるわけにはいかないと第2球のサーブを同じように回転をかけて打った。

鈴木は先ほどの球筋を思い出し、まっすぐに見えて横回転の多い球を打ってくる相手の第2球である相手の球の回転が見えたので、自分も回転を加えながらレシーブした。球は惜しくもネット上部に当たったあと自分の台に落ちてしまった。2ポイントを取られてしまったが、相手の球筋と対策がわかったので焦りはなかった。

石川は2ポイント先取したものの、自分の癖球がずうっと通用する様子が無い予感のようなものを感じていた。相手を見ると理知的な感じに見える。運動神経は良いとはいえないが、論理的に分析し対応してくるだろうと思った。その相手のぎこちないサーブを難なく返して次にそなえる。

相変わらず癖のある球が返ってくるが、焦らず確実に返すことを心がけた。相手もラリーをしながら様子を見ているのだろう。でもラリーが続いたらミスをするのは自分の方が多いだろうと思った。相手の球が少し浮いたところを強打してみた。やったと思ったが、それは返ってきた。

相手は殆ど初心者だろうけど、遊びで何度かはやっているのだろう。返ってくる球にムラはあるがたまに強く打ってくる。油断するとあぶないな。あ、チャンス。

回転に気を取られているうちにスマッシュを浴びてしまった。辛うじてラケットに当たったものの、大きく横にそれていった。背の小さな女子だってあのスピードが出るんだぁ。よし、これはどうだ!

3ポイント連取か。よし、この調子で行こう。えっ! 変なサーブだわ。あ、逆回転!
スマッシュを決めて気分も盛り上がっていたのだろう、思い切り振ったラケットの下を球が通り過ぎてしまった。

とりあえず1ポイント返したぞ。お、顔つきが変わったな。少し恐いけど可愛いな。もういっちょう、それっ!

油断したわっ……ていうか、相手が強いのか弱いのかよくわからない。
あ、またあのサーブね。ここは前に出て軽くかえしましょう。

さすがに2度同じ失敗はしないな。あ、レシーブもカットしてみよう。

げ、またこれかよ。じゃ私も。

ほーっ 真似したな。でもオレの方が手が長いから短いのも届く。

回転には回転というわけね。それっ!

石川は少しずつ相手の考えているこっとが分かったきたような気がしてきた。サーブの時の真剣な表情に心が動いた。そして次第に相手が打ち返しやすい球を打っている自分に苦笑している。

鈴木は、ラリーが長く続くうちに目の前の小柄な女子部員と心の交流が続いているような気分になってきた。だからこのラリーがいつもでも終わらなければいいな、などと本来の目的を無視した試合運びとなっていた。時折眼に入る相手の顔が愛しいような気分だった。

       *     *
作品名:ピンポン 作家名:伊達梁川