関西夫夫 ポピー4
「まあ、俺に任せとけ。好きなもん食って好きにしたらええ。」
「・・・ええんかいな・・・」
「かまへん。」
「おまえがええんやったら、ええけど。」
水都は不思議なもんでも見たような顔をしているが、俺は内心で、やる気満々やった。メシを食え、と、言うなら食うが、我が家の日常風景に耐えられると思うなよ? おっさんどもっっ。以前、堀内と沢野のおっさんらも、辟易してたくらいや。二度と見たない、と、思わせてやる。なんせ、俺の嫁は、俺がすることには無抵抗なんやからな。あーんしようと、途中で味見と称して、口移ししようと気にせぇーへんのやからな。
もちろん、おっさんたちはメシの途中で無言になったのは言うまでもない。普段、無口無愛想な水都が、「もう、いらん。」だの、「これ、もっと。」だの言いながら、俺に食わせてもらってる風景は寒いに決まってる。我が家では、いつものことやから俺は気にしない。いつものようにやってええと言うたんは、おっさんらのほうやからな。
「タコはなかったけど、これもええな? 」
「さよか。白身の魚やけど・・・・こういうのも好きか? 水都。」
「せやな。煮物やけど、あっさりしててポン酢やさかい。食いやすい。」
「ほんなら、今度、うちでも作るわ。これぐらいなら、近いもんができるはずや。はい、冷めてるから、自分で食べ。・・・・うーん、天麩羅は、もうちょっと待っとけ。真ん中が熱い。」
「花月、自分も食ってるか? 」
「そこそこにな。茶碗蒸しを冷ましてるから・・・・はい、あーん。」
ふーふーと冷まして、嫁の口に茶碗蒸しをスプーンで放り込む。十分に冷ましているから、嫁は、こくんと食べている。たいてい、問題になるのは温度なんで、こういう場合は、俺が食わせたほうが安全や。普通に外食すると、しばらく俺の嫁は放置して、俺がオッケーを出してから食べるのたが、時間短縮のために、いちゃこら度を増加させている。
「なあ、爆弾小僧。」
「なんや? 」
「それ、わしらに対するイヤガラセか? 」
「いいや、うちの家は、こういうもんや。堀内のおっさんから聞いてないんか? あのおっさんも見たないって暴れとったぞ? 」
「確かに見たない。」
「同感や。」
「なるほどな。そやから、みっちゃん、メシは食いたくないって言うんやな。・・・・てか、おまえが、そういう教育しとるから猫舌が悪化しとるんちゃうんか? 」
「余計なお世話じゃ。俺の嫁に、俺が、どう世話しようと俺の勝手や。誘ったおっさんらが悪い。」
「勝手にやってくれ、わしらも勝手に楽しませてもろて、勝手に呑むわ。」
普段の生活が、これでは水都は、外でメシを食うのは面倒だというのは理解できる。甲斐甲斐しい世話をされているから、自分で食べる気はなくなったらしい。
「そら、あそこまでやったら、みっちゃんも食うわな。」
「昔も猫舌やったとは思うけど、悪化させたんは、爆弾小僧やな。全部、温度の確認して食わせてるとは、恐れ入ったわ。」
十代後半あたりから水都のことを知っている面子なので、ぼそぼそと観察しつつ酒を呑む。堀内が中部の本社に移動させるのを諦めたのも納得やった。これでは、一週間離したら、水都は以前の栄養失調状態に戻ってしまう。
「まあ、ええんちゃうか? あれはあれで。」
「くくくくく・・・・惚れとるからなあ。なんせ、腹に爆弾巻きつけて奪還しよったあほやさかい。」
「あれは傑作やった。・・・・青春やったわ。ははははは。」
聞こえると花月が暴れるので、少し離れたところで東川たちは小声で話をしつつ呑んでいた。