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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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ゲンテン街とカテン街の神

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俺がニートの兄を連れてこの街に来たのには理由がある。
それはひとえに兄の改善だ。

「兄貴、ここがゲンテンの街。
 ここでなら、どんな人間も差別なく常に最高階級で過ごせるんだ。
 ニートでも仕事に就けるはずだ」

「そうか、でもなにもしないぞ」

「いやしようよ!? いつまでもその生活続けるわけにいかないだろ!?」

「しない」
「しろって!」

「しない!」

「だから……」

ピピ――!!

どこから笛の音が聞こえたかと思うと、警察官がやってきた。

「はい、あなた今ゲンテンされましたよ」

「げ、減点?」

「この街ではね、すべて減点方式なんですよ。
 最初に最高の評価からスタートして減点して
 どんどん人間としての価値が下がっていく」

「いやちょっと待ってください。俺がなにしたっていうんですか」

「拒否している人に強引に要求を押し通そうとしてました」

「だからそれは――」

「あと、口答えも減点です」

減点により、最高階級であったはずの俺は
もう一般人と同じに階級まで下げられてしまった。

「あなたは一般人エリアに行ってください」

そのままあれよあれよと離れ離れになってしまった。
一般人エリアでは、ごくごく一般的な町の一角。

仕事も、食事も、人もすべてが「普通」。
一流のものに触れることはできない。

「しょうがない。なんとかして合流できるように待つかな」

そう思っていた俺が甘かった。

「自転車でぎりぎりですれ違った、減点!」
「挨拶の声が小さかった、減点!」
「飲みの誘いを断った、減点!」

一般人はおろか、相次ぐ減点で奴隷階級まで格下げされた。

「おら奴隷。さっさと運べこら」

「うう……なんでこんなことに……」

奴隷階級まで落ちぶれると、減点されることはない。
人間として扱われていないものに、減点する必要なんてないからだ。

「すべて、減点されるお前らが悪いんだぜ。
 悪いことして減点されなければこんなことにはならなかったんだ」

上流階級は勝ち誇って宣言した。
ある日、同じ奴隷階級に聞いてみた。

「減点方式じゃ、ずっと奴隷階級のままだよ。
 なんとか脱出する方法はないかな」

「この街の外に、カテン街というのがあるんだ。
 そこでは、最低の階級から始まって
 良いことをするたびに加点してもらえるらしいよ」

「なるほど! それなら階級をプラスマイナスゼロにできる!」

その日、俺は脱走してカテン街へと向かった。
カテン街はゲンテン街と比べてにぎわっていた。

「お荷物持ちましょうか!? あ、いらない?」
「ここにゴミがありました、取ってあげます!」
「道案内をさせてください!」

誰もが自分のポイント稼ぎに必死になっている。
まるでホストの客引きだ。

必死な彼らには見えないが、
彼らがそこにいることで通行の邪魔になっていることを指摘した。

「あの、ここで声をかけているとお邪魔になるかもしれません。
 もう少し端によってもらえませんか?」

「は? なんでだよ。端だと声かけづらいだろ」

「それもわかりますが、ほかの人の迷惑もあるので」

「奴隷階級が一般階級に口答えしてんじゃねぇよ!!」

拳が飛んできた。
そうだった、ここはカテン街。

ゲンテン街なら減点される行為だとしても、
カテン街では減点されて階級が下がることはない。

殴られて吹っ飛ばされたそのとき。

「あなた、ほかの通行人に気遣いつつ
 さらに殴られても手ひとつ出さないなんてすばらしい!
 大量加点です!!」

俺の行為が評価されて大量加点。
気が付けば貴族階級まで成り上がっていた。

さっきの男はコンマ数秒で土下座した。

「さきほどは、本当にすみませんでした!!」

「いえいえ、そんなのいいんですよ」

謙虚な姿勢で加点された。

「よし、これだけ階級をもとに戻せば兄のところに行けるな」

ふたたびゲンテン街に戻ろうとして、ふと考えた。

「いや、待てよ。
 ゲンテン街でも加点される行いをすれば
 もしかしたら、減点されずに加点されるかも!」

どちらも街のシステムが違うだけで同じ人間だ。
普通の人ではしない親切をすれば、ゲンテン街でカテンされるかも。

俺はカテン街で喜ばれたことを書き留めてゲンテン街へと戻った。

「兄貴……いったいどこへいったんだ?」

兄はどこにもいなかった。

「あの、うちの兄知りませんか?」

「今それどころじゃないんだよ。こっちは礼拝で忙しいんだ」

>タイミング悪く話しかける 減点

ゲンテン街に入るなりいきなり減点された。
そこで、カテン街で得たノウハウを披露することに。

「それは大変失礼しました。それじゃその礼拝をお手伝いさせてください」

謙虚な姿勢で、相手の手助けをする。
カテン街では加点されていた行為だ。

「いや……あんた知らない人だからいいよ」

>相手に不快な思いをさせる 減点

「あれぇぇぇえ!?」

カテン街では喜ばれたはずなのに!?


高齢者に席を譲っても減点された。
「ジジイ扱いするんじゃないよ!!」

迷ってる人に親切で道案内をしたら減点された。
「頼んでもいないのに、連れてかないでよ!」

車にひかれそうだった子供を救っても減点。
「うちの子が擦り傷ついたじゃない!!」


気が付けば、ふたたび奴隷階級に逆戻り。


「なんでこんなことに……」

何をやってもデメリットを揚げ足取られて減点される。
凹んでいると、奴隷たちが騒ぎ始めた。

「なにかあるのか?」

「知らないのかよ。こんな場所にも神様が来てくれるんだ!」

「神様?」

「いままで一度も減点されたことがないんだ!
 そんな人間今まで誰もいなかった! まさに神様だ!」

「それはすごいな……!」

神様が奴隷階級の町へ、高級な馬車とともに現れた。


「あ、兄貴!?」

神様だともてはやされた男は、兄貴だった。

「兄貴、いったいどうして神様に!? 何をしたんだ!?」

兄貴はぼーーっとしながら答えた。

「いや、何もしてなかった。
 家でニートしてたら減点されなくて、気が付けば神様になってた」


この街では人畜無害が最高の価値を持つと知った。