関西夫夫 ポピー2
接待なんか楽しないんで、俺も帰りを優先する。あのボンクラどもは食わせて飲ませたら、ええらしいので、そこいらは嘉藤さんと佐味田のおっちゃんが相手してくれることになってる。東川さんは泊るつもりらしい。まあ、往復すんのは面倒やし、そのほうが楽やろう。月曜日は少し遅れて出勤する。俺は、どっちも帰宅すると言うてあるから、ホテルの部屋も抑えてない。
まだ二時間くらい余裕のある時間に神戸に到着した。茶でもシバいて時間でも潰そうか、と、言うてたら携帯が着信した。
「はい、浪速。・・・・・ああ、はいはい。もう着いてますけど・・・はい・・・はい・・・・一時間繰り上がり? はいはい・・・ほな、ぼちぼち行きますわ・・・はい。」
空腹なので早くメシを食わせろ、と、ボンクラどもが騒いでるので一時間早くなったという東川からの連絡やった。ここからホテルまでは徒歩でも一時間とかからへんので、間に合うから歩いて行くことにした。送っていくつもりやった花月とホテルに向けて、ブラブラと歩くことにした。
ホテルの手前で俺の亭主は、回れ右をした。どーしても東川たちには会いたくないらしい。ホテルに到着したら、東川さんがロビーで待ってた。
「すまんなーみっちゃん。」
「別にええですよ。」
「個室を抑えてたから、繰り上がるくらいは、なんとかなったわ。おまえ、ほんまに帰るんか? 」
「いいや、俺の亭主がホテルとってくれたから、泊る。」
「それやったら、ここのホテルで泊まり。」
「ええねん。明日も夜まで遊ぶから駅に近いほうがええ。それに、東川さんらには逢いたくないねんて。」
そう言うと東川さんは吹き出した。過去いろいろと、とんでもない行状があって花月は、この人たちとは絶対に接触したくないと言う。それを、東川たちも知っているから無理は言わない。
「あははは・・・・せやったら、そうしたらええわ。ほんなら、明日、タクシーのチケット出したるから、それで帰り。」
「そら助かるわ。」
「ほな、爆弾小僧は、どーしとるんや? 」
「チーズフォンデュ食いに行った。」
「は? そんなんあるんか? 」
「あるらしい。俺、一生食いたくないし、自分だけの時に行くねんてさ。」
「まあなあ、おまえには一生無理やろーなー。」
二人して、ホテルのレストランへ歩きながら向かう。そこの個室を予約したので時間が繰り上がっても、どうにかなったらしい。午後に到着した中部の一行は、適当に観光もしてきたとのことで、すでに酔ってるのもいるらしい。
レストランの入り口で添乗員を引き受けてくれてる堀内の知り合いが待っていた。挨拶して個室に案内してもらうと、すでに騒がしい。
「みなさん、浪速部長さん到着ですでー。」 と、添乗員さんが声をかけてくれたら、拍手が起こる。ああ、酔うてるな、と、そのハイテンションで判明する。
「浪速です。お疲れさんです。・・・・添乗員さん、メシはじめたってください。」
立ったまま、そう指示して俺がテーブルを見回すと中部の連中が、こちらへ、と、席を用意してくれるが、先に嘉藤さんが腕を引っ張って俺を自分の横に座らせてくれた。
「うちの部長、飲めませんのでな。酌は、わしらが受けますさかい。」
もちろん、俺の逆隣りは東川さんやし、そのとなりは佐味田さんや。関西の面子が横に並んで席に着いている。鉄板挟んで対面が中部のボンクラどもや。真ん中に料理してくれてる人が数人入ってて、準備が始まっている。
「部長、何飲みます? 」
「俺、ウーロン茶かレイコがええ。あと灰皿。」
「レイコ? 肉食うんやで? 部長。」
「レイコでええて。」
「浪速さん、最初だけでもビールで乾杯しませんか? 」
「いや、すまんことですが、俺、酒はからきしやし。今日、これから家に帰るさかい勘弁してください。酒は、うちのもんが相手しますんで。」
対面の連中が、「ええっ。」 と、驚いた声をあげている。代表して、一人が声を出した。
「今日は、じっくり浪速さんと語り合いたいと思ってたんですが。帰るんですか? 」
「俺、しゃべりは苦手ですねん。それに酒も呑めへんやつが付き合えませんで? 」
「じゃあ、酒は抜きでも結構ですから。」
「俺、枕変わったら、あきませんねん。晩飯だけ、お付き合いさせてもらいます。」
まあ酔わせて、いらんこと聞いてやろうという魂胆は最初から予想されてたので、とにかく拒否することになっている。酔って、うっかり花月の名前を吐いたら厄介やから、そこいらも、うちのスタッフと打ち合わせはしてあった。あんまりしつこかったら怒鳴ってもええ、と、嘉藤からも言われている。
「すんませんなーみなさん。うちの部長、人見知りが激しいんで宴席は遠慮させてもろてますんや。・・・・ほな、始めましょうか? 部長、乾杯の音頭は? 」
「東川さんがやって。俺、そういうのイヤや。」
「わかりました。ほな、わしが音頭とらせてもらいます・・・・今回は、親睦も兼ねて、ということでしたんで、こちらに、わしらも集まらせていただきました・・・・」
東川さんが、適当に挨拶して乾杯すると料理も始まる。鉄板焼きなので、料理人が料理を始めると、じゅーと鉄板から音がする。
「みっちゃん、とりあえず、ここいらがお通しや。肉と魚と両方あるから、これで腹一杯にしたら、あかんで。」
眼の前の、ちまちまとした料理を指し示して、嘉藤さんが説明してくれる。
「そういや、沢野さんが、神戸牛は食ってこいって言うてたわ。」
「まあなあ、こんだけ贅沢なんは接待かなんかでないと食うこともあらへんさかい、とりあえず肉は食え。」
チューとレイコを吸い上げて、たばこを吸う。相手は、腹が減ってるらしく、いきなりガツガツ食うてるから会話も、なんもない。
こっちの面子は、適当にビールで雑談している。
「メシ食ったら、適当に添乗員さんに飲み屋に案内してもろて、わしらも、お役ゴメンや。明日、みっちゃんは観光に付き合うんか? 」
「いいや、夜に顔出すさかい、場所だけメールくれ。」
「さよか。まあ、そのほうがええわ。わしらも付き合うけど、それほど興味はあらへん。」
「大阪のほうも最終日だけ宴会あるけど、そっちも付き合ったってや? 」
「ええーまだするんか? 面倒な。」
「まあ、そういいなや。てっちりにしたるさかい。」
「メシなんか、どうでもええわ。」
あっちの料理が終わったら、こっちも焼いてくれる。まずはアワビやった。花月やったら、大喜びするんやろうが、俺には興味がない。次に魚で、さらに肉や。適当に冷まして、適当に口に入れる。確かに、美味いんやろうけど、まあ、こんなもんやろうというのが感想や。
「佐味田のおっちゃん、まだ入るんやったら、これも食うてくれ。」
「おう、食わしてもらうで。おっちゃん、肉は好物や。」
どうせ、水都は完食などできないので、他の面子が水都の残したものは片付ける。相手は追加だなんだと騒いでいるので、まだ食うらしい。さらにビールだけでなくワインやらも追加しているが、こっちは適当に食うほうに専念している。
「神戸って観光は、どこに行ったん? 」