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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅴ

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「日垣1佐。僕が空幕勤務になる頃には、変な人を全部追い出して、幕内を牛耳っていてくださいよ。できれば防衛部長になって」
「それは、防衛部長になって『僕』を引き抜け、という意味かな?」
「あっ、そうです、そうです。よろしくお願いします」
 とたんに顔の筋肉を緩めてぺこりと頭を下げるお調子者に、幹部の面々は爆笑した。
「コネづくりに精出す前に、CS(空自の指揮幕僚課程)の二次試験に受かるのが当面の問題じゃない?」
 宮崎が銀縁眼鏡をギラつかせてツッコミを入れると、片桐は首を吊るジェスチャーをして、ヒキガエルのような声を出した。美紗はキーボードを叩きながらクスリと笑った。片桐のリアクションが可笑しかったのも確かだが、無遠慮な部下たちとくだらない雑談をした日垣が優しい笑顔に戻ったことが嬉しくて、自然と自分の顔もほころんでしまった。

 日垣は、松永からいくつか書類を受け取ると、「邪魔したね」と言って立ちあがった。
「おかげで、嫌な『仕事』をひとつ片付ける元気が出たよ」
 直轄チームの全員が、一斉に第1部長に目を向けた。処理すべき案件があるのかと、「シマ」の雰囲気が素早く仕事モードに切り替わる。
「いや、そういう話じゃない。今週の金曜日に、フランス大使館のレセプションがあってね。革命記念日の祝賀行事で、これまでも顔出し程度に出席してきたんだが、今年は、新任の空幕副長もお出ましだろうから……」
「現地で天敵と顔合わせですか。確かに気が進みませんな」
 日垣より六、七歳年上の高峰が、口ひげをいじりながら渋い顔になる。対照的に、愛嬌ある顔立ちの小坂は、明るい声で口を挟んだ。
「そういうの、夫妻単位なんでしょ? 奥さんに隠れ蓑代わりになってもらうわけにはいかないですかね」
「日垣1佐は、こっちには単身で来ておられるんだよ」
「じゃあ、うちの部の誰かを『奥さん代理』で連れてってしまえば……」
 3等海佐の、階級にはあまりそぐわない軽口に、美紗はなぜかドキリとした。