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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅴ

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「ごめんね。急に変な話して」
 吉谷は、黙り込んだ美紗から目を外し、テーブルの端に置いてあったメニューを手に取った。彼女がスイーツのページを吟味している間に、美紗は、頭の中を占拠していた日垣貴仁のイメージを、何とか振り払った。水を一口飲んで、胸につかえる何かをむりやり押し流し、急いで食事を終えた。
「好きなの選んで。デザートぐらい、ごちそうするから」
 メニューを美紗に手渡す吉谷は、すでに、いつもの朗らかな顔に戻っていた。遠慮する美紗に、「話を聞いてもらったお礼」と言い、申し訳なさそうに眉をひそめている。その表情に、裏の意図はないように見えた。
「美紗ちゃんは芯がしっかりしてるし、あんな話とは無縁だよね。だいたいさあ、人様の『完成品』に手を出すより、同世代の頼りない男を、焼き肉でも焼くみたいにじっくり育てるほうが、味わいがあっていいと思わない?」
 吉谷は、持論を妙な言葉で例えて同意を求めると、
「そうだ。いつか焼き肉行こうよ」
 と言って、いたずらっぽい笑顔を美紗に向けた。


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