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チェリーボーイのシャル・ウイ・ダンス

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「ああ琉生。今までありがとう」
「えっ?なんだよ。もう夜の十一時だ。車の中で眠らないか」
「ああ、そうしよう」凱斗は言った。そして、
「じゃあ、俺後ろのシートで寝てるぞ」凱斗がそう言った。
「ご自由に」
「俺はさっきの屋敷で撮った写真をFBに載せるぞ。今日の凱斗凄かったもんな。本当今日のお前少し変だぞ。FBに写真載せるからな。タイトルはシャル・ウイ・ダンスだ。いいだろ?」
「ご自由に」
 僕は先程の酔っぱらってダンスを踊った凱斗の写真をを載せようとした。おかしい。
「あれっ?なんだこの写真。お前を撮ったはずの写真なのに、お前が写っていない。屋敷が写っているだけだ」
 そのときだった。携帯の電話が鳴った。母からだった。
「もしもし?琉生?琉生なのか?お前は無事なのか?」
「なんだ母さんか。どうしたんだよ」
「よかった無事だったのか。本当心配したよ」
「なんだよ母さん。どうしたんだよ?」
「母さん悲しいよ。凱斗君。わが子のように可愛がってきたのに」
「何言ってんだよ。母さん」
「凱斗君。本当いい子だったよ。あの子が学級委員で飼育委員で、餌代を参考書にあてたけど、母さんしっかりあの子のこと見てたよ。この子なら必ず大きくなる。立派になるって。あの時は母さんも悔しかったよ。本当にあの子はいい子だったよ」
 僕はただ聴いていた。
「あの子は募金活動をやっていたことも、母さん我が子のように見てきたよ。そして東京工業大学に入ったとき、母さんも嬉しかったよ。人生これからだって時にね」
「母さん本当何言ってるんだ?」
「川で溺れている猫を助けるなんて凱斗君らしいよ。本当母さん悲しいよ。これから素敵な女性と出会って、結婚して、人生これからだって時にね。結局あの子は女性を知らずに逝っちゃうんだね。凱斗君女性を知らずに逝っちゃうんだね。母さん悲しいよ。ニュースでもやっているから、ラジオをつけてごらん」
 僕はラジオをつけるため車のエンジンをつけた。
「本日、群馬県の烏川で、東京工業大学三年生の学生河野内凱斗君二十歳が川で溺れているところを発見され、病院に救急搬送されましたが、病院に運ばれた時、すでに死亡が確認されました」 
 僕は眉をしかめた。
「この東京工業大学の学生河野内凱斗君は川で溺れていた子猫を助けようとしていたと思われ、子猫は岸辺に辿り着きましたが、河野内青年は助からず……」
 僕は徐々に眉間にしわを寄せた。キャスターが、
「本当。残念なニュースです。若い命が絶たれてしまって……」
 得心のいかぬ琉生は眉をしかめながら、ゆっくり後部シートを振り向いた。
「なあ凱斗……」
 琉生が振り向いた先は虚しくも空のシートがあるだけだった。
琉生は徐々に今起きていることが認識されつつある。
「ハア、ハア、ハア」
 呼吸がだんだん、激しくなっていく。
「ハア、ハア、ハア。ハア、ハア、ハア」
 先程のダンスを踊る凱斗を思い出す。チェリーボーイのダンスを思い出す。
「ハア、ハア、ハア」
 飼育委員として頭を下げる凱斗を思い出す。募金活動で千円をもらい、頭を下げる凱斗を思い出す。
「ハア、ハア、ハア。ハア、ハア、ハア」
 そしてまたシャル・ウイ・ダンスとでたらめなダンスを踊る凱斗を思い出す。
「ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、かいとー」
 河川敷でただ、琉生の嗚咽だけが虚しく響くだけだった。

                               (了)