チェリーボーイのシャル・ウイ・ダンス
「えっ?うそ?なんでこんなとこにシャンパンが。しかもシャンパンばかりがこんなにたくさん」
「まあそんなこと気にするなって」
「飲もうぜ」二人で一本ずつ瓶を手に取った。
「いいのか」
「ああもちろん」
「じゃあ乾杯」
僕達は瓶と瓶をぶつけ乾杯した。凱斗はシャンパンを開けずに瓶を振り出した。
「おい凱斗。どうすんだよ。それを」
凱斗はにやけながら、僕の言葉に構わず振り出した。そしてシャンパンを開けた。凱斗はシャンパンが溢れる瓶を僕の方にかけた。
「おい。やめろよ。服が濡れる」
「いいんだよ」
「野郎。じゃあ俺も」
僕はシャンパンを手で押さえ瓶を振った。そして凱斗にかけた。
僕達は二人で笑いころげながら、シャンパンをかけあった。僕は、
「おい、大丈夫か。こんなことしてて。またあの幽霊が出てきたらどうする?」
「俺が出てこないようにとりはからってやるよ」凱斗は言った。
「馬鹿。何でお前がそんなことできるんだよ」
二人でシャンパンをかけ合い、笑い、宝石のようなシャンデリアの下で走り回った。
いつの頃からだったかなあ。僕達は不本意に大人になって、年だけは二十歳なのに大人になりきれなくて……でもいっちょ前に痛みだけは感じやがる。僕達は芸術家にはなれないよ。上手く自分を表現できないんだ。何もないんだよ。俺達には。笑っちゃうね。本当に今時の駄目な若者だ。
二十年目の現実逃避。
もし現実というものを騙せるのなら、今宵は華麗に舞いたい。嘘と分かっている栄光にでもすがりたい。僕達は小さな部屋で膝を抱えて怯えてばかりじゃだめだってことを一番僕達自身が分かっている。
凱斗は酔っぱらってきたのか、きざなことを言った。
「シャル・ウイ・ダンス?」
「おい、お前酔っぱらってんのか?」
「なあ、琉生シャル・ウイ・ダンス?」
「はっはっはっ面白しれえや凱斗」
僕達は二人ででたらめなダンスを踊った。
凱斗は言った。
「俺達大学三年生だってのに、結局童貞で終わったな」
「何言ってんだよ。まだまだこれからだよ」
「なあ琉生。高校のときの、あの音楽部のセレナちゃんて子どう思う?」
「ああ、そう、髪のサラサラしたお嬢様。最高に可愛いね」
「どうしたい?あの子と」
「手をつなぎたいね。そうしてキスをしたい」
「俺なんかもっとすごいこと考えてるよ」凱斗は言った。僕は、
「どうするんだよ?」
「あの子に俺のあそこしゃぶってもらいたい」
「お前すごいこと言うなあ。あんなお嬢様に。どうしたんだよ。今日はお前らしくないぞ」
「そうして出そうになる前にな……」
「おい。よせよ。らしくないぞ」
「言わせろよ」
「おい本当よせよ。本当らしくないぞ」
「想像だけは自由だろ」
「おい、よせったら」
「お口でやってもらって出そうになったら今度はセレナのあそこにぶっこんでやる。最後までいってやる」
「はっはっはっすげえよ凱斗おまえどうしちゃったんだよ」
「はめをはずしてやるんだよ。ぶっ飛んじゃおうぜ。とことん。ぶっ飛んじゃうんだよ。とことんな」
一生に一度しかない青春。今宵は華麗なる舞踏会。二人のチェリーボーイが生意気なステップを踏んで、宝石のようなシャンデリアの下で、でたらめなステップで踊る。
その頃の僕達は曖昧だった。いろいろな意味で曖昧だった。でも僕達は生きているんだ。
「なあ、凱斗僕達は生きているんだ」
「そうだな」凱斗は野獣のような鋭い目で無言の返事をした。
「大学卒業まで、まだ一年以上ある。どっちが先に童貞を捨てれるか競争だ。凱斗。俺達はまだまだチャンスはあるだろ。東京工業大学だってチャンスはあるだろ」
「そうだな」凱斗は小さくそう言った。しけた花火のように本当に小さく、「そうだな」とポツリそう言った。
その後も凱斗が踊り、スマホで凱斗をパシャパシャとった。
「あとでFBにのせる。タイトルはシャル・ウイ・ダンスだ」
僕達は踊り疲れて、二人でゴージャスな絨毯にしゃがんだ。そのとき凱斗は言った。
「何か聴こえる」
僕は、「えっ?俺には何も聴こえないよ」
「こっちだ琉生」そう言って凱斗は僕を導いた。僕は、
「何で、お前がそんなこと分かるんだよ。今日の凱斗なんだかおかしいぞ」
僕の言葉に構わず、凱斗は洋室に案内した。僕達が洋室で目にしたものは小さな棺だった。
「ここに、棺がある。開けてみよう」凱斗は言った。
「大丈夫か?凱斗」
凱斗は棺を開けた。そこには子供の骸骨と思われるものがあった。僕は言った。
「これ先程の子供の幽霊の骸骨じゃないか。手の辺りに聖書がある」
「多分そうだろう。琉生隣の部屋へ」凱斗は隣の部屋へ僕を導いた。そこにも棺があった。凱斗はその棺も開けた。
「今度は大人の骸骨。先程の女性かな」凱斗は棺に手をかけ、
「そっちもって」そう言った。
「いいのか凱斗」
作品名:チェリーボーイのシャル・ウイ・ダンス 作家名:松橋健一