千のかがやき
「これ、よいち。まだか」
殿様はしびれをきらして言います。
「殿様。宝は、自分で苦労して手に入れるので価値があるのです。どうか、お歩きください」
殿様は宝のために、ひいひい言いながら登りました。最後はよいちに背負われて、やっと、てっぺんに着くことができたのです。
殿様はふもとを見回して、その景色の良いことにおどろきました。
「そちのいう宝とは、このことか?」
「いいえ、殿様。しばらくおまちください」
そのうち殿様は疲れ切って眠ってしまいました。
やがて、向こうの海のかなたから、満月が昇ってきました。いよいよ、月が真上にきたとき、よいちは殿様に声をかけました。
「殿様。起きてください」
寝ぼけまなこで、むっくり起きあがった殿様は、たちまち目がぱっちりさめました。
なんということでしょう。自分の体が、銀色の光に包まれているではありませんか。
その光は、足下の田んぼから立ちのぼっているのです。よいちは誇らしげに言いました。
「いかがでしょう。田ごとの月です」
山の下から上まで、水をはった千まいの田んぼすべてに、満月が映っています。水が鏡のようになって、月の光を何倍にも輝かせているのです。殿様は息をのみました。
「まさしく、この世に二つとない宝だ」
「はい。ですが、この宝はひとりじめにすることはできないのです」
大きく目を見開いて、光り輝く田んぼを見つめるうちに、曇った殿様の心に澄み切った光がしみわたりました。すると、この時はじめて殿様は、棚田を耕す村人の苦労を感じたのです。
よいちはほうびをもらう代わりに、年貢を半分にしてほしいと願いました。
それから殿様は、百姓に慕われるよい領主になったということです。