鳥頭になる学校で監禁
目を覚ますと、夜の学校の廊下に寝ていた。
「こ、ここは……うわぁ!?」
目の前には女が倒れていた。
しかも血を流している。
「大丈夫ですか!?」
ゆすっても起きない。
これはまずいかもしれない。
救急車を呼ぼうにもこの場所がわからないし、
なんで自分がここにいるかもわからない。
「とにかくここを出ないと!」
立ち上がると、体にものすごい疲労感がのしかかった。
まるでフルマラソンを走りきった後のようだ。
「なんだこれ……くそっ」
けだるい足を運びながら窓の方へと歩く。
まずは窓が空いているかを確認しておこう。
……
…………あれ?
「なにしてたんだっけ」
窓際に立って、窓から見慣れない風景を眺める。
なにしてんだ俺。
ふと振り返ると、血を広げて倒れている女がいた。
「うわっ!? な、なんで!?」
早く救急車を!
いや、それ以前にここがどこかわからないからどうしようもない。
窓は学校のくせにしっかり固定されている。
割る以外に開ける方法はない。
「そうだ! 教室の机やイスかなんかで叩き割ろう!」
教室に向かおうとする前に、
奥の廊下にちょうどよく椅子が不自然に転がっていた。
ナイスタイミング。
教室にいくまでの手間がはぶけた。
俺は椅子を取りに廊下の奥へと進んだ。
イスを手に取ると、ふとそこで止まった。
「……あれ? なんで椅子なんか持ってるんだ?」
俺は見知らぬ夜の学校の廊下で、イスを持って立ち尽くしていた。
これじゃ完全な不審者だ。
なにしてんだ俺。
体は疲れ切っているし、イスを持っているし。
雲の切れ間から、夏の月明かりが入って来た。
月明かりに照らされてはじめて、自分の手に書かれた文字が読めた。
『歩くと忘れる学校』
『歩いて忘れろ』
右手と左手には水性のインクで書かれていた。
それじゃ椅子を持って立ち尽くしている俺は、
もしかして歩いてここまで来た理由を忘れたのか?
「なんでこんなわけわかんない場所に……」
ふと、振り返ると廊下の奥で女が倒れている。
「ひええ!! なんで!? 殺人犯がこの学校にいるのか!?」
でも、よく考えたら殺人犯がいるとしても
この学校であれば歩くほどに忘れていくから怖くない。安心。
いや、安心じゃないけど。
「とにかく、ここを出よう!」
幸い、手元にはなぜかイスがある。
イスを窓にぶん投げると、窓から跳ね返された椅子が戻って来た。
「危なっ!!」
まさかの強化ガラス。
校舎のガラスを割られないように配慮したのだろうか。
こうなったら、出る方法は玄関にいくしかない。
「歩いて忘れるなら、忘れないように声に出していこう」
一歩、足を前に踏み出すのが怖い。
「玄関に行ってここを出る」
これに出して一歩踏み出す。
……
…………あれ?
「俺、どこかに行こうとしていた気がする」
一歩歩いた姿勢のまま体は止まった。
なにか忘れていることは覚えているが、なにを忘れたかわからない。
とっても大事なことだったような……。
「たしか、窓ガラスを割ろうとして失敗した。それは覚えてる。
そのあとどうしようとしたんだっけ……」
いくら考えても思い出せない。
この学校が歩けば忘れる学校だとは覚えている。
とにかく、ここを出なくちゃ。
「よし、窓が無理なら玄関しかないな。
忘れないように書いておこう」
幸い、ポケットにはスマホと水性ペンが入っていた。
水性ペンで腕に、"とにかく一度学校に出る"と目的を書いた。
これで忘れない。
・
・
・
どういう理由かはもう思い出せないが
俺がいる学校の玄関までやってきた。
「とにかく学校を出るってあるからな。よっ」
玄関のドアを開けようとしても鍵がかかっているのか動かない。
鍵穴を見てみるとガムが詰められている。悪質だ。
ガラスの厚みから見ても、割って出られるレベルじゃない。
「いったいどうすれば……」
なんでここにいるかもわからない。
俺がどうして外に出たがるかもわからない。
俺は考えるときのクセでポケットに手を突っ込んだ。
「あ、スマホあるじゃん」
なんで気付かなかったんだ。
圏外ではあるけど、なにか使えるかもしれない。
電源をつけると、スマホのメモ帳が開きっぱなしになっていた。
(これまで試したこと)
・屋上に行ってみたが周りは森だらけ、人はいない
・非常用ダストシュートもない
・ゴミ捨て場のドアも閉まっている
・玄関のドアも閉まっている
・ガラスは割れない
・発煙筒などのものもない
などなど。
俺がこれまでやってきた行動の履歴がびっしりと書いてあった。
きっと、忘れないようにとメモをしていたんだろう。
学校のいろんな場所を行ってみて、ことごとく無駄足を踏んでいた。
メモの最後にはこう書かれていた。
――もう歩き疲れた。最初にいた1階廊下に戻る。
「俺、めっちゃ脱出方法を探していたのか……」
スマホのメモで逐一自分の履歴を残しながら、必死に探す。
肉体的にも精神的にも限界に来てあきらめたんだ。
「戻ろう」
俺はスマホを開きっぱなしにして、元の場所へ戻ることにした。
歩くたびに忘れてしまうけど、詳細な行動履歴があることで
自分の記憶を保持しながら戻ることができた。
「な、なんだこの血!?」
1階の廊下には血だけが広がっていた。
まるで誰かがケガして倒れていたようだ。
広がった血の後ろに点々と血の痕跡が残っていた。
俺は血の跡を追うように、後ろに足を進めた。
「……あれ? なんで忘れていたんだ?」
俺は思い出した。
この血だまりには最初に女が倒れていたことを。
あんなに強烈だったのに忘れていた自分が不思議だ。
いやそれよりも。
この学校は歩くと忘れる。
でも、後ろ向きに歩くと思い出すんだ。
「これは大発見だ! もしかしたら出る方法が見つかるかもしれない!」
俺は後ろ向きにどんどん足を運ぶ。
血の痕跡を追いかけながら。
ああ、そうだ。
この血の痕跡は最初にはなかった。
女が起き上がって歩いたのか。
また歩く。
そうだった。
そもそも俺は自分からこの学校に入ったんだ。
また歩く。
思い出した。
この学校には地下に特別な出入り口がある。
完全封鎖されているこの学校にはそこから入ったんだ。
次の一歩を踏み出したとき。
「あっ……」
ここに来るまでに忘れていた記憶を思い出した。
恋人を刺してこの学校に運び込んだ。
証拠もすべて消している。
確実に殺したつもりだった。
でも、俺の口からボロが出ないために学校にやってきた。
完全に事件のことを忘れた俺はどんな取り調べにも負けない。
「そうだ……俺は自分から美咲のことを忘れるために……!」
もう血を追いかけることはしない。
きっと地下の抜け道につながっている。
ここに来るまで、彼女は俺に抱えられてやってきた。
歩いていないから記憶は残っていたんだ。
学校の周囲を囲み始めたパトカーが見えてくる。
俺はもう戻ることはしない。
すべてを忘れられるように、今度は足を前に進めた。
「こ、ここは……うわぁ!?」
目の前には女が倒れていた。
しかも血を流している。
「大丈夫ですか!?」
ゆすっても起きない。
これはまずいかもしれない。
救急車を呼ぼうにもこの場所がわからないし、
なんで自分がここにいるかもわからない。
「とにかくここを出ないと!」
立ち上がると、体にものすごい疲労感がのしかかった。
まるでフルマラソンを走りきった後のようだ。
「なんだこれ……くそっ」
けだるい足を運びながら窓の方へと歩く。
まずは窓が空いているかを確認しておこう。
……
…………あれ?
「なにしてたんだっけ」
窓際に立って、窓から見慣れない風景を眺める。
なにしてんだ俺。
ふと振り返ると、血を広げて倒れている女がいた。
「うわっ!? な、なんで!?」
早く救急車を!
いや、それ以前にここがどこかわからないからどうしようもない。
窓は学校のくせにしっかり固定されている。
割る以外に開ける方法はない。
「そうだ! 教室の机やイスかなんかで叩き割ろう!」
教室に向かおうとする前に、
奥の廊下にちょうどよく椅子が不自然に転がっていた。
ナイスタイミング。
教室にいくまでの手間がはぶけた。
俺は椅子を取りに廊下の奥へと進んだ。
イスを手に取ると、ふとそこで止まった。
「……あれ? なんで椅子なんか持ってるんだ?」
俺は見知らぬ夜の学校の廊下で、イスを持って立ち尽くしていた。
これじゃ完全な不審者だ。
なにしてんだ俺。
体は疲れ切っているし、イスを持っているし。
雲の切れ間から、夏の月明かりが入って来た。
月明かりに照らされてはじめて、自分の手に書かれた文字が読めた。
『歩くと忘れる学校』
『歩いて忘れろ』
右手と左手には水性のインクで書かれていた。
それじゃ椅子を持って立ち尽くしている俺は、
もしかして歩いてここまで来た理由を忘れたのか?
「なんでこんなわけわかんない場所に……」
ふと、振り返ると廊下の奥で女が倒れている。
「ひええ!! なんで!? 殺人犯がこの学校にいるのか!?」
でも、よく考えたら殺人犯がいるとしても
この学校であれば歩くほどに忘れていくから怖くない。安心。
いや、安心じゃないけど。
「とにかく、ここを出よう!」
幸い、手元にはなぜかイスがある。
イスを窓にぶん投げると、窓から跳ね返された椅子が戻って来た。
「危なっ!!」
まさかの強化ガラス。
校舎のガラスを割られないように配慮したのだろうか。
こうなったら、出る方法は玄関にいくしかない。
「歩いて忘れるなら、忘れないように声に出していこう」
一歩、足を前に踏み出すのが怖い。
「玄関に行ってここを出る」
これに出して一歩踏み出す。
……
…………あれ?
「俺、どこかに行こうとしていた気がする」
一歩歩いた姿勢のまま体は止まった。
なにか忘れていることは覚えているが、なにを忘れたかわからない。
とっても大事なことだったような……。
「たしか、窓ガラスを割ろうとして失敗した。それは覚えてる。
そのあとどうしようとしたんだっけ……」
いくら考えても思い出せない。
この学校が歩けば忘れる学校だとは覚えている。
とにかく、ここを出なくちゃ。
「よし、窓が無理なら玄関しかないな。
忘れないように書いておこう」
幸い、ポケットにはスマホと水性ペンが入っていた。
水性ペンで腕に、"とにかく一度学校に出る"と目的を書いた。
これで忘れない。
・
・
・
どういう理由かはもう思い出せないが
俺がいる学校の玄関までやってきた。
「とにかく学校を出るってあるからな。よっ」
玄関のドアを開けようとしても鍵がかかっているのか動かない。
鍵穴を見てみるとガムが詰められている。悪質だ。
ガラスの厚みから見ても、割って出られるレベルじゃない。
「いったいどうすれば……」
なんでここにいるかもわからない。
俺がどうして外に出たがるかもわからない。
俺は考えるときのクセでポケットに手を突っ込んだ。
「あ、スマホあるじゃん」
なんで気付かなかったんだ。
圏外ではあるけど、なにか使えるかもしれない。
電源をつけると、スマホのメモ帳が開きっぱなしになっていた。
(これまで試したこと)
・屋上に行ってみたが周りは森だらけ、人はいない
・非常用ダストシュートもない
・ゴミ捨て場のドアも閉まっている
・玄関のドアも閉まっている
・ガラスは割れない
・発煙筒などのものもない
などなど。
俺がこれまでやってきた行動の履歴がびっしりと書いてあった。
きっと、忘れないようにとメモをしていたんだろう。
学校のいろんな場所を行ってみて、ことごとく無駄足を踏んでいた。
メモの最後にはこう書かれていた。
――もう歩き疲れた。最初にいた1階廊下に戻る。
「俺、めっちゃ脱出方法を探していたのか……」
スマホのメモで逐一自分の履歴を残しながら、必死に探す。
肉体的にも精神的にも限界に来てあきらめたんだ。
「戻ろう」
俺はスマホを開きっぱなしにして、元の場所へ戻ることにした。
歩くたびに忘れてしまうけど、詳細な行動履歴があることで
自分の記憶を保持しながら戻ることができた。
「な、なんだこの血!?」
1階の廊下には血だけが広がっていた。
まるで誰かがケガして倒れていたようだ。
広がった血の後ろに点々と血の痕跡が残っていた。
俺は血の跡を追うように、後ろに足を進めた。
「……あれ? なんで忘れていたんだ?」
俺は思い出した。
この血だまりには最初に女が倒れていたことを。
あんなに強烈だったのに忘れていた自分が不思議だ。
いやそれよりも。
この学校は歩くと忘れる。
でも、後ろ向きに歩くと思い出すんだ。
「これは大発見だ! もしかしたら出る方法が見つかるかもしれない!」
俺は後ろ向きにどんどん足を運ぶ。
血の痕跡を追いかけながら。
ああ、そうだ。
この血の痕跡は最初にはなかった。
女が起き上がって歩いたのか。
また歩く。
そうだった。
そもそも俺は自分からこの学校に入ったんだ。
また歩く。
思い出した。
この学校には地下に特別な出入り口がある。
完全封鎖されているこの学校にはそこから入ったんだ。
次の一歩を踏み出したとき。
「あっ……」
ここに来るまでに忘れていた記憶を思い出した。
恋人を刺してこの学校に運び込んだ。
証拠もすべて消している。
確実に殺したつもりだった。
でも、俺の口からボロが出ないために学校にやってきた。
完全に事件のことを忘れた俺はどんな取り調べにも負けない。
「そうだ……俺は自分から美咲のことを忘れるために……!」
もう血を追いかけることはしない。
きっと地下の抜け道につながっている。
ここに来るまで、彼女は俺に抱えられてやってきた。
歩いていないから記憶は残っていたんだ。
学校の周囲を囲み始めたパトカーが見えてくる。
俺はもう戻ることはしない。
すべてを忘れられるように、今度は足を前に進めた。
作品名:鳥頭になる学校で監禁 作家名:かなりえずき