ここに来た(全集) 21カ所目追加
1 オシュコシュ(アメリカ ウィスコンシン州)
少年の時、アメリカに短期留学した。
わずか1ヶ月のホームステイだったが、16歳の世界観は大きく変わった。
ホストファミリーの家から車で5時間ほど離れたオシュコシュという町の空港に、航空ショーを見に行った。
その往路で、ファミリーの父親が運転するバンの窓から、何もないハイウェイの景色を眺めていた。
何もない。
いや、実際にはトウモロコシ畑があった。2時間ぐらいトウモロコシ畑ばかりを見ていた。不慣れな英会話も弾まず、ただ暇で窮屈な車内だった。
途中で尿意を催してきた。ドライブインやガソリンスタンドもすぐには無さそうだった。
車を路肩に停めてもらった。
とても天気のいい夏の日だった。
道路はトウモロコシ畑より1mほど高くなっていた。少年は、草むらの斜面を降りて、車から少し離れたところで、用を足した。
少年の目線から見える景色は、一面のトウモロコシ畑と、ところどころに点在する広葉樹がアクセントになっていた。空にはエアーショーへ向かう戦闘機が飛んでいた。山がなかったせいで、雲が大きくとても低いところを流れて行くように見えた。障害物が何もないフィールドに、トウモロコシの葉を揺らす風が渡り、まるで鳥の群れのように見えた。
左側、これからの道が少し上り坂になって、空に続くように見えた。
右側、道路わきの草むらに、こげ茶色のウサギが走っているのが見えた。
また正面、地平線まで続くこの景色を偶然見ていることに感動した。
『この景色を再び見ることはできるのだろうか』
少年の頃に感じた疑問。これをずっと抱きながら、私は今も世界を旅している。
作品名:ここに来た(全集) 21カ所目追加 作家名:亨利(ヘンリー)