覇王伝__蒼剣の舞い4 【第一部完】
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「大きくなったな、清雅」
叔父に戻った狼靖が、清雅の背を強く抱く。
15年前、妹・桜の後ろに隠れていた小さな少年は、今や狼靖の背を超し、剣の腕は四国最強となった。叔父として何もしてやれなかった後悔で一旦は剣を封印し、彼の前から去った狼靖だが、もう逃げない事を誓った。
「死ぬなよ、クソ親父」
「クソは余計だ。死なぬ。お前が覇王となり、吾が剣を振るえなくなるまではな」
「やっぱり、あんたはクソ親父だぜ」
「帰ってこい。必ず、清雅」
「…ああ」
そんな彼らの後ろで、咳払いがする。慌てて身を引いたのは清雅だった。
「…お取り込み中失礼します」
「拓海っ、お前いつから…!?」
「うーん…、さっきです」
「………狼靖、あんた息子の躾間違ってねぇか?」
「彼は、貴方の従弟ですよ」
主従の関係に切り替わった二人の前で、拓海は笑っている。
「清雅さまって___」
「___何だよ」
「ファザコンなんですね」
「拓海、てめぇ!!」
掴みかかろうとした清雅をひょいと交わし、拓海が逃げる。
____必ず、帰って来ましょう。みんなと一緒に、清雅さま。
星空の下、一時ただの従兄弟同士となった彼らの声がいつまでも響いていた。
翌朝、清雅たち四獣聖は蒼国王城を経った。
「とりあえず、北国街道だね」
黒抄国へ向かうには、一番早道である。
「焔、そう簡単に、黒抄領内には入れん」
「あん?」
「黒抄最強、二武将がいるからな。それに、白碧も黙ってねぇ」
恐らく、一番の敵は白碧だろうと清雅も星宿も考えている。
そんな彼らの後ろで不安そうな、天狼に拓海がにっこりと微笑みかける。
「大丈夫ですよ。御父上は必ず救い出します」
「…はい、拓海さま」
「行くぜ」
清雅は、手綱を引き一歩を踏み出す。
覇王への一歩を。
その先に、更なる試練が待ってるとは未だ知らぬ初夏の旅立ちであった。
--------------------第一部 完----------------------------
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い4 【第一部完】 作家名:斑鳩青藍