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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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知識ボトルはいらない!

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「金ばかりかけて一向に利益になる発明をしない!
 貴様ら、半年以内に1億円の利益を出さなければ
 この研究所もお前らの仕事も取り上げるからな!!」

研究員二人に非情な宣告がなされた。

「おい、どうする……ついに後がなくなったよ」

「確実に売り上げる発明品を出すしかないな」

二人は何時間も必死に考えた。
何度も意見やアイデアをぶつけ合って最終的に出た
確実に儲けられる発明品は……

「「 よし! 知識ボトルを造ろう!! 」」

ということになった。

そもそも発想は"歳をとると自分の知識を自慢したくなる"からで、
だったらその知識をペットボトルにでも入れてしまえばいい。

という発想だった。

「人間だれしも知識欲というのはあるからな!
 これなら確実に売り上げが見込めるぞ!」

研究員Aはノリノリだったが、研究員Bの顔は曇っていた。
とはいえ、時間もないので二人は開発に着手。

寝る間も惜しんでついに『知識ボトル』が完成した。

「できた! さっそく俺の知識を入れてみよう!」

研究員Aは自分が好きなアイドルグループの知識をボトルに入れた。
そして、それをアイドルに興味ゼロの研究員Bへ渡す。

「よし、試してみよう。
 ……でも、もしものことを考えてここに
 『忘却ボトル』を用意しておいたからな」

「ああ、もしヤバい感じになったら『忘却ボトル』で
 アイドルの知識だけを忘れるようにするよ」

研究員Bは、アイドルの知識が詰まったボトルを開ける。

「おお……そうなのか。ミーコちゃんは、リンゴが好きなのか……!」

「成功だ! アイドル知識が身についている!
 どうだ? 何か後遺症とか違和感とかないか?」

「ない。完璧だ、完璧な発明品だぞこれは」

「やったーー!! これを売れば大儲けできるぞ!!」

研究員Aはさっそくボトルを手に抱えて売りに出ようとした。
しかし、それを冷静な研究員Bが引き留める。

「ダメだ。それを売るのはダメだ」

「なんでだよ! こんなにいいもの、売れないわけないだろ!」

「ああ、そうだ。だがダメだ」
「はぁ!? 理由を説明しろよ!」

「理由は……知識には限界があるからだ」

「……?」

「それに今売ってもどれだけの人が気付くんだ。
 とにかく、知識ボトルをどうするかは俺に任せろ」

研究員Bの真剣な顔に負けて、研究員Aはその日は引き下がった。
でも、家に帰ってからもやはり納得がいかない。

「よし、明日会ったら、知識ボトルの売り方について話し合おう」



翌日、研究員Aが町に出ると奇妙なボトルが道端に転がっていた。

「これは……知識ボトルじゃないか!?」

昨日開発したての知識ボトルが、タダ同然に道へ転がっていた。
中の知識を開封すると、一般人が詰めたとわかる知識だった。

「ま、まさかアイツ……!
 タダで知識ボトルを売ったのか!?
 半年で1億稼がなくちゃいけないのに!?」

研究所へつくと、すでに知識ボトルはどこにもなかった。
Aは怒り狂ってBへつかみかかった。

「お前!! せっかくの発明品をただで野に放つなんて……!!
 いったい何を考えているんだ!!」

「あのまま普通に売って、
 どれだけの人間が知識ボトルの存在に気付く?」

「だからって無料でばらまいたらそれこそ利益出ないだろ!!
 そんな身勝手な奴だと思わなかった!! チームは解散だ!!」

お互いに半年以内に1億円を何とか捻出して、
この研究室を存続させるという気持ちは同じだと思っていた。

ハナからあきらめたあげく、全部捨てるなんて。

「くそっ……! こうなったら俺だけでもなんとかしなきゃ!!」

Aは自分の知識はもちろん、ほかの優秀な人に声をかけては
知識ボトルの中に知識を入れて高額で売ることにした。

「道端に転がってる一般教養なんかよりも、
 有料のこっちの方がはるかに専門的な知識が手に入るよ!!」

Aがそもそも考えていた、本来の知識ボトルの売り方。


しかし、利益はまるで出なかった。


「売れるのに……少しは売れるのに……」

Aの知識ボトルは一部の人には売れた。
でも、その後に知識を手にいれた人が知識ボトルで無料で放流する。

有料でしか手に入らないはずの知識が、
一般人の手で海賊版が簡単に作られ、無料の知識ボトルで拡散される。

そうなればもうおしまい。

「ああ、みんな……みんな知識をどんどん手に入れてしまう……」

Aの悪い予感は的中した。

3ヶ月もすると無料で手に入る知識だろうが
有料の知識だろうがすでに一般教養として浸透してしまっていた。

「いりませんかーー……有名映画監督の知識でーーす……」

「はぁ? 知識ボトル?」
「うそ、あんなゴミに金とるの?」
「つか、こんな知識フツーに知ってるつーの」

爆発的な広まりを見せた知識ボトルの流通も落ち着いて、
もう道端に生えている雑草と同じような状況。

最初は誰もがこぞって開封した道端の知識ボトルも、
誰ひとり見向きもしない。

開封したところで、知識欲が満たされないからだ。

「はぁ? この知識、知ってるし。開けて損したー」

Aの有料知識ボトルもまるで売れなくなった。
海賊版の影響もあるけれど、誰もが知識を手に入れすぎた。

知らない知識よりも、知っていることが多すぎる。

Aはがくぜんとした。


「もうだめだ……開発費も残っていない……。
 利益は少しも出ちゃいない……。もう終わりだ……」

「……すみません」

「そもそも半年で1億集めろというのが無理なんだ。
 いくらいい発明をしても結局は……」

「すみません、その知識ボトルを1つください」

「……ああ、はいはい。
 でも、どうせこんな海賊版が出まくった知識ボトル。
 今や開封したところで知識欲なんて満たされないよ」

「でしょうね」

顔を上げると、客として立っていたのは研究員Bだった。
この期に及んでAはBへ怒ることもできなかった。

「ああ……Bじゃないか。久しぶりだな……。
 すべてお前の考えた通りさ。
 この通り、知識ボトルは売れなかったよ。

 最初から俺が普通に売ってたとしても、
 ゆくゆくは同じ結果になっていただろうな……」

Aは一人で愚痴り始めた。

「知識には限界があるって意味……よくわかったよ……。
 ある程度まで行けば知識欲を満たすことはできないってことだったんだな」

「それはよかった。代金はここに置いておくぞ」

Bは小切手をAの前に出した。
書かれた金額を見てAは言葉を失った。

「いち、じゅう、ひゃく……じゅ、10億円!?」

小切手には10億円が刻まれていた。

「B、いったいお前は何をしたんだ!?
 10億円なんてどうやって稼いだんだ!!」

「知識欲は限界がある。
 でも、忘れることができれば限界はない」

Bは最初の『忘却ボトル』を取り出した。
忘却ボトルには値札がつけられていた。


「俺が売りたかったのは忘却ボトルのほうさ。
 忘れることができれば、また新しい発見ができる。
 それがたとえ、前に知っていることでもな」

「お前、それじゃ最初から……!