太平洋の覇者
ここで無理だ、とは不可能だとは言えなかった。日本が建造した以上、それは人間が造ったということだ。ならば同じ事を―――否、それ以上の物を造り出せるはずだ。劣等の黄色人種が造り出せた物を優秀なアングロサクソンが造れないはずがない。
「出来ます。我々には、アメリカ合衆国には可能であります、大統領閣下」
「出来るのか?出来るのならば、それはいつになるのだ。ジャップ共を屈服させるのは何時になるのだね」
大統領は身を乗り出した。もしも彼が車椅子から立ち上がることが出来たなら、彼はキング提督の胸座を掴んでいたかもしれない。
そこには怨念を超えた何か―――殺意すら感じられた。
キング提督は震えた。この怯えにも似た感情は何だ。大統領の殺気にか?それとも日本に対してか?或いはその両方か――――
「4年です、大統領閣下」
「4年か」
大統領は乗りだした身を元に戻すと、ゆっくりと瞑目した。
「駄目だな」
大統領は、閉じていた目を見開いた。
「3年だ。3年でものにしたまえ。―――できるな、提督」
キング提督は威儀を正した。
「了解であります、大統領閣下」
後にキング提督はこう述懐した。「あの時はそう返事をしなければならなかった。そうしなければ私は大統領に殺されていただろう」と。
アメリカ合衆国の戦いは、今まさに開始されたのだった。