レイドリフト・ドラゴンメイド 第18話 涙の居場所
「うわあああ!!! 」
シエロは、凄まじい叫び声を聞いた。
脳内に、3種族とチェ連の指導者たちが、まるで目の前で見ているように現れた。
彼らがいるのは、市役所の地下だ。
20畳ほどの全面コンクリートの部屋。
部屋は半分に区切られ、そこに彼ら40人が押し込められている。
つめれば全員座れる程度の広さだ。
部屋を区切るのは、蠍緒のポイズン・チェーン。
床から天井へ、壁から壁へと突き刺さっている。
3種族と指導者たちは、その中で拘束されることなく、自由に振る舞っていた。
彼らはその中で。
天上人も、地中竜も、海中樹も、チェ連人も。
手に地球のお菓子をわしづかみにして、口へ押し込んでいた!
【ああ、甘い! おいしいなぁ】
【こんなうまい物を作らなかったなんて、我が種族はなんてバカだったんだろう! 】
【いや、すべてはボルケーナ様より賜ったこの体のおかげ! ありがたや! 】
【おかわり! 】
ポイズン・チェーンの内側から、白い紙の皿が押し付けられる。
このチェーンに触れても、魔法火に覆われることはなかった。
【おかわり! 】
次に押し出されたのは紙コップだ。
【はい! 】
おかわりを渡すのは、黒い炎の鎧のルルディ騎士団だ。
その中に、蠍緒もいた。
皆、引っ切り無しにお菓子の袋を開け、皿にのせたり、あわてて茶を沸かし、次々にコップに注ぐ。
お湯を沸かすのは自分たちの鎧の掌に載せた、やかんだ。
チェーンの内側で、地中竜が大きな菓子の袋を開いた。
袋の開け方を覚えたばかりなのか、床に小袋が飛び散る。
飛び散った床に、我先にと無数の手が伸びる。
その手の内2つは――。
口にチョコレートをべったりつけ、拾った菓子を嬉しそうに暴食するのは――。
シエロの父、ヴラフォス・エピコス中将。
チェ連極限地師団の師団長だった。
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シエロは今まで感じたことのないショックに、体からすべての力が抜けた。
床へ倒れる寸前に、誰かが支えてくれた。
「なんだこれは! 智慧のいたずらか?!!! 」
『あのね、シエロ君。よく聞いて』
あわてて割り込んだ通信があった。
達美だ。
『猫をお仕置きと称してケージに閉じ込めても、ケージそのものを怖がるだけなの。
人間だってそう。
何かを考えるためには、まず素敵な環境が必要なのよ。きっと』
彼女はそう言った。
だが、他の声にかき消され、シエロには届かなかった。
「あは。あははははは!!! 」
狂った笑い声が車内を覆っていた。
カーリタースだ。
シエロが倒れた拍子に、赤いベレー帽をひっかけ、床に落としたのだ。
カーリタースは、さらに言い放つ。
「なんだよ! チェ連人は弱いじゃないか!
バカじゃないか! 」
「黙れ! 狂人め! 」
そうシエロが止めた時、気付いた。
怯えた叫びは、彼自身の口から出たことに。
『智慧! あんた! 』
スピーカーからボルケーナの声が聞こえる。
そのつぎに聞こえたのは、肉を打つ鋭い音と、床をなにかが転がる音だった。
「うううううう! 」
うめきながらもシエロは、何とか視線をボルケーナと知恵が写ったモニターに向けた。
だが目のピントが合わないのか、涙のせいなのか、ぼやけて見える。
『まさか、私達の目を操るなんて! 』
叱りつけるボルケーナ。
ようやくピントがあった視線には、智慧の床に倒れた視界があった。
智慧は、ボルケーナに平手打ちされていた。
『それでもさすがね。一瞬で回復したじゃない』
不敵に笑っている、智慧の声だ。
ボルケーナは問い詰める。
『狙いは、天上人の記憶でしょ。
いったい何が目的で……。
まさか、地下の様子を!? 最高機密だって言ったでしょ! 』
この怒声だけで、多くの知的生命は恐れおののき、ひざを折り、拝む。
だが智慧は、すぐに身を起こすと、思いきり怒鳴り返した。
『そんな物、くそくらえよ!! 』
視界に智慧の右手が写った。
その手の中指だけが伸びている。
腕に、天上人のガスがまとわりついている。
まるで戯れるように。
だが、そうでないことはすぐわかる。
天上人は、智慧の完全な支配下に置かれているのだ。
『あのとき総理から、{テレパシーで頭をのぞいても証拠とはならないぞ! テレパシスト以外の人間には証明できないから! }って言われた時、カチンときたのよ』
智慧が言った一瞬のち、そのとき活躍したティッシーが答えた。
『う、うん。私もカチンときたよ』
彼女は、床を這っていた。
視界は、さまよっている。
奪われた視界がもどっていないのだ。
彼女だけではない。
異星人も、地球人も、ボルケーナをのぞいた皆が。
『いただいた記憶は、カーリ君とシエロ君に渡したわ。
2人には真犯人の交渉役もしてもらうから、与える情報は多い方がいいでしょ? 』
そんな智慧に、SATの警官たちが反論する。
『必要な情報は、こちらから伝える予定だったんだ!
これで君の友達は、ショックを受けることになるんだぞ! 』
『友達? 』
智慧は、その単語を汚い物であるかのように言った。
シエロとカーリに直接、テレパシーで。
『友達なら、友達の苦しみに共感する物でしょ!
カーリ君が言うには、異世界から人を召喚するのは、世界を実効支配する行為なんですって!
あれ?
シエロ君、現実世界の市街戦は見ていないのね。
鷲矢君が怖かったのかな? 】
図星をつかれた!
シエロは身が凍る思いだった。
そして今、鷲矢 武志は……。
倒れ掛かった、自分を支えている!
『じゃあ、こんなのはどう? 』
智慧のテレパシーが、再び膨大な記憶を押し付ける。
作品名:レイドリフト・ドラゴンメイド 第18話 涙の居場所 作家名:リューガ