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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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その日、消えた町

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ある日、外に出るとだだっ広いコンクリートが広がっていた。

昨日まであったはずの高層ビルも鉄塔も電柱もない。
いったい誰が1日でなにをしたんだ。

驚きながら歩いていると、思い切り電柱にぶつかった。

「痛っ!! なんで!? 何もないのに!!」

ぶつかった部分をまさぐってみると
どうやら電柱は透明なだけで存在はしているらしい。

「まさか……"消えた"んじゃなくて、"透明"になったのか!?」

その日、この街は透明になった。


普通の会社に行くと、みんな空気イスをしていた。

「おはよう。誰かいるか」

「先輩、おはようございます。声でわかりますよ。
 透明になったからどこにいるかわかりませんね」

「しかし、こんな状況になっても
 普通に会社に来ちゃう自分の社畜根性がいやになるよ」

「あははは。透明になっても仕事できちゃいますしね」

悲しいことにすべてが透明になっても、
会社がどこにあってどこに自分の机があるかもわかる。

とくに生活に支障はなかった。

「電車も普通に走ってましたし、
 やっぱりみんな同じ日常を過ごしているから
 今頃透明になっても感覚でできちゃうんですね」

「すごいよな……ホント」

「この近所で犯罪とかも聞いてましたし、
 見通しの悪い場所がなくなって安全なんじゃないですか?」

「そんなポジティブにとらえられるかぁ!」

人も、建物も何もかも透明になった。
障害物がないので晴れた日も曇りの日も遠くの山が見える。絶景だ。

「……意外と町の機能はそのままなんだなぁ」



透明化から数日もすると、徐々に町昨日にひずみが出始める。

電車が来なくなり、会社にも来なくなり
町からだんだんと人がいなくなっているのがわかる。

「みんなどうして居なくっちゃうんだろうな」

「先輩、決まってるじゃないですか。
 この街じゃ見えない以上、毎日同じ暮らししかできないんです。
 新しい場所にいくこともできないんです。透明だから」

そう言っていた後輩が翌日会社に来なくなった。
こうなってしまってはもう追いかけることもできない。

でも、俺は何十年も暮らしたこの町を離れたくない。

「このまま人が減って過疎化しちゃったら……。
 お店も閉まって誰もこの町で暮らしていけなくなる!!」

俺は持ち前の営業力を発揮することにした。


『すべてが透明な町で人と関わらない静かな生活を!』
『透明な町で新生活をはじめませんか!?』
『人の視線が気になる人はぜひ透明な町で働こう!』

透明な町の外に向けて散々宣伝をしまくった。

だんだんと人が集まってきて、
見えないなりにも町が活気を取り戻しているのがわかる。

止まっていた電車も動くようになり、
音で知らせるタクシーなんかも出始めた。

「これでこの町は安泰だ! もうこの町から離れないぞ!」

最高に居心地よくなった町。
俺はここで骨を埋めることを決めた。




翌日、外に出ると高層ビルが立ち並んでいた。
町のすべての透明化が解除されていた。

道行く人の顔も見えるようになった。

「こんにちは、いい天気ですね?
 ところで私の顔をご存じですか?」

すれ違った男の人はにこりと尋ねる。

「い、いえ、全然知りません。まったく知りません」

「そうですか。良かったですね」

男は会釈して去っていった。
俺はすぐに支度をしてこの町を出ることを決めた



その日のニュースにて。

『いったいどういうわけか
 重大犯罪者たちがとある町に密集して生活していました。
 彼らは口々に透明だから気付かれないなどと話していますが……』
作品名:その日、消えた町 作家名:かなりえずき