竜が見た夢――澪姫燈恋――
「……」
いつのまにか二人の距離は詰まっていた。戒がそっと池のほとりに片膝をつく。
「お傍にいさせてはくれませんか?」
不意に、瑠璃は苦しさを覚えた。
それが切なさであることを知らない。
彼女は悟る。戒が自分に向ける真摯な感情にさえも、恐れを抱く自分がいることを。そしてその恐れは消えないかもしれないことを。
自分がのまれてしまうかもしれない、そんな恐怖は消えないのかもしれない。
けれど。
「手を……」
それでも、戒は傍にいてくれるというのなら。
「手を、貸していただけますか?」
「……はい」
戒の手をとり、池の外へと滑るように歩き出す。
地に足をつけて、そっと背の高い戒を見上げた。
「……わたしは、貴方が怖い」
「はい」
「貴方の強い感情が」
「はい」
どんな瑠璃でもいいと言ってくれるのなら。
瑠璃の心を見守ってくれるというのなら。
「それでも、いつか」
この恐怖を抱いたままでも。
「貴方に、恋をするかもしれません」
主の言葉に、男は微笑んだ――。
作品名:竜が見た夢――澪姫燈恋―― 作家名:緋水月人