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そのときは、不条理と思えるような出来事でも、後で振り返ると、それがあたかも必然的に起こったように思えることがある。人はそれを運命と呼ぶ。人は運命に導かれ、人生という名の旅をする。
母の死によって、山形吾郎の時計が止まる。深い悲しみにくれているとき、親戚の一人が「人間の運命は初めから決まっている」と言う。
一年後、大学４年の春　美沙と出会い半年後に同棲する。大学卒業後、結婚し、東京で暮らす。二年十か月が過ぎた二月の終わりである。美沙は「人は片割れを求めて旅をする」という言葉を言った後、「自分の片割れは吾郎だ」と告白した。妊娠三か月だった。吾郎も「片割れが美沙だ」と答える。二人は幸せの絶頂期にいた。ところが交通事故で美沙があっけなくこの世を去る。
吾郎が三十四歳のとき、場末のホステスである五歳年上の沙織と出会う。やがて、二人は関係を結ぶ。仮面を外さない、体だけの関係である。六年続き、沙織が四十六歳のときである。乳がんが見つかる。入院したときは既に遅く末期がんだった。治療の施しようない状態であった。
沙織が入院していたとき、吾郎に姉の子美雪を紹介する。
吾郎は沙織のそばにずっとついていたかったが、その願いは叶わず、「美雪の面倒を見てほしい」という言葉を吾郎に残し、あっという間にこの世を去った。
沙織が亡くなってから二か月後、吾郎の紹介で美雪はバーでアルバイトをすることになった。やがて、二人は恋に落ちる。
ある日、吾郎は「人は自分の片割れを求めて旅をすると言われたことを思い出した」と美雪に言う。
すると、美雪は「片割れは見つかったの？」と聞いた。
「美雪が片割れだ」と抱きしめた。
美雪を抱きしめながら、吾郎は過去を振り返った。あたかも一本の線路のようにつながっているように見える。まるで運命に導かれて、美雪に出会ったような気がしてならなかった。