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きんぎょ日和
きんぎょ日和
novelistID. 53646
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初めまして、ラピスさん。

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それから十二月、ひろみさんからメールが来た。
この四ヶ月ほどの間にもメールのやり取りはしていたけど、ラピスの話はそうなかった。
そしてひろみさんがラピスの事を聞いて来た。
『ラピスの具合が思わしくありません。立ち上がる事も出来ません。』
というメールと写真が届いた。
『ラピスの事なんですが、1ヶ月も前からではないですが、力のない感じというような気持ちが何度か伝わって来ました。ちょっと意味が分からなかったので、なんとなくゆきの(馬;本名)に聞きました。ゆきのの表情があまりいい顔をしてなかったので、体調が良くないのかなぁ~と感じてました。送られて来た写真のような姿がずっと見えていて、ラピスとはほとんど会話は出来てません。一生懸命息をしてる感じで、ただこちらを見てるだけでした。』
とメールを送った。
『正直、難しいと思っています。痛いとも言わないのが辛いです。体重も半分くらいになってしまいました。下半身が立たないので、引きずり腰や肩に大きな傷が出来てしまいました。』
とひろみさんから届いた。
何とも言いようがない瞬間。
何と言葉を返して良いのやら悩む瞬間。
そして、
『ラピスは何と言ってますか?側にいた方がいいですか?』
と。
こんなメール、どうしたんだろう?!と思いながらもラピスに声を掛けようとしたら、ふとラピスが草原を思いっ切り走っている姿が見えた。
そこは上の世界に行ったリップ(犬;本名)が本気で走っいた所とそっくりだった。
それが見えた時、私は息を呑んだ。
半分向こうの世界に行ってるのかもしれないと思った。
もちろんそんな事は言えないので、この事についてはひろみさんにはメールをしなかった。
恐らく、私に見えた光景はラピスにも分かってるんだと思った。
そんなラピスが辛そうな表情で首を横に振っている。
私はラピスに、
『どうしたの?!ひろみさんが側にいた方がいいか聞いてるけど、…辛いか…。ひろみさんにそうメールするよ。』
とラピスの気持ちを察してそう言った。
と、いつもここまでの会話なら淡々と進む。
がしかし、それを文字にして送信するとなるとなかなか指が動かない。
動かなくする気持ちは私の意志か…、はたまた上の意志か…、それともその他の意志か…。
この送信ボタンをいつも簡単に押しているのに、命を抱えたらこんなにも重いものになるのだと、こんな時にばかり知ってしまう。
しかし、その私の意志を越えてラピスの意志が私の指に力を加えた。
『ラピスが、“もう辛すぎて側にいないで欲しい。静かにしておいて欲しい。”と言ってます。』
と送った。
が、それ以上にラピスの言葉があった。
『もうこれ以上、足の痛みに我慢が出来ない。ママの気持ちに応えてあげたいけど、辛すぎてもう無理。』
と…。
私はこの言葉は伝えなかった。
それはひろみさんの気持ちもあるからだった。
飼い主だからそこは我慢すべきところと思う人もいるかもしれない。
エゴと言えばエゴになるだろう。
しかし私に伝わってくる何かの思いがある。
それはただのエゴ、わがままかもしれない。
それを苦しんでいる犬や家族を前にしている人に言えるだろうか…。
生きて行く側のモノは、それを含め背負い、生きて行かなければいけない。
どの道の選択肢を取れば正解なのか…、誰の想いを優先するのが最善なのか…、何も見えない私からはここまでが限界だった。
この言い分は伝えないよとラピスには言っていたけど、ラピスは首を横に振って、
『ママは大丈夫だから…。ママには言っても大丈夫だから…。ママは分かってくれるから…。』
と何度も言われた。
そしてひろみさんから、
『ラピスはどうでしょうか?』
とメールが来た。
それは私が意を決すのに、一瞬だった。
大きく深呼吸して、
『ひろみさんには辛いと思いますが、お伝えします。八月のひろみさんからメールを頂いた時に、上から、“今年いっぱいあるか…、年を越せるか…。”と言われてました。今思うと、それをラピスが伝えて欲しいと思ったのかなぁ~と思います。今、ラピスから伝わることは、穏やかな空気でいたいとのことです。上の言葉も定かではないので、こちらもなんとも言いようがないです。その上で話してます。
そして今、ラピスから、“ママ、ありがとう。”と穏やかな声が聞こえました。』
と書いて、送信した。
後で知ったことだが、ひろみさんは夏を越せないんじゃないかと思っていたとの事だった。

次の日、ひろみさんからメールが届いた。
『ラピスが逝きました。ついさっきお水を飲んだ所だったのに…。』
と。
携帯を見つめたまま言葉が出なかった。
その文章を…、短い文章なのに数回読んだ。
そして、
『上の草原を元気よく走ってます。昨日、その姿が見えて不思議だなぁ~と思ってました。見せ付けてくるように走ってました。綺麗な毛並みですね。上が、“一旦、こちらでお預かりします。”と言ってます。気を落とさずに…。』
と送った。
すぐに返事が来た。
『ありがとうございます。昨夜はクンクン言っていて、普段声を出す子ではないので辛かったんだと思います。チョット目を離したときに…、一人で逝かせちゃった…。』
と。
『一人になるまで逝けなかったようですよ。早く走りたかったみたいです。今は兎に角走ってます。ゆきのが、“自分の事は気にしないで、今度来た時にラピスの話を聞かせて。”と言ってます。』
と送った。
『右膝が癌で、子供の頭くらいに腫れて…。動けなかったので、走れて良かった。ゆきのにありがとうと伝えて下さい。』
と届いた。
私はこの時初めてラピスが癌だったと知った…。
『こっちの事は無視されてます。ひろみさんの事も気にすることなく走ってます。話し掛けても無視です。』
と送ったら、
『夢中になって走ってるんですね!!』
と返事が来た。

年を越して一月のある日、ふとボルゾイの姿が見えた。
その事をひろみさんへとメールした。
『こんにちは。天国にいる賢いボルゾイが話しかけて来ましたよ~。“この子の事は大丈夫。”との事です。ラピスの面倒を見てくれるとの事です。しっかりした子ですねぇ~。』
と。
すぐに返事が来た。
『こんにちは。どの仔かな??親バカですが、みーーんな自慢のいい仔達でした。』
ニコニコしているひろみさんの顔が目に映った気がした。
後で分かったのだが、それは父親のボルゾイ、シャドー(本名)だと分かった。
シャドーは早くに亡くなったらしく、ラピスが生まれる二週間前だったと聞いた。

それからしばらくして、ひろみさんからメールが来た。
『今日は何だか匂いがします。お線香のような…、犬の匂いのような…。何でしょうか?』
と。
また難しい質問だな~なんて思いながら、
『ちょっとその匂いを辿ってみますね。』
と送って、関係ない私も鼻をクンクンさせてひろみさんの周りを匂ってみた。
ひろみさんの喉の辺りから右首にかけて煙のようなものが動いて行くのが見えた。
匂ってみると確かに煙のような犬のような匂いがする。
その動く煙のようなものをしばし見ていた。
…どうもそれは犬のシッポのような感じがする。
そんな感じの事をメールした。
するとひろみさんから、