真人間
「皆、不幸のどん底だ。皆、足の引っ張り合いだ。どうせこんなもんなんだ。どうせ悪口言ってるに決まっている。どうせ、幸せにはなれない。」
その通りだ。
「君の人生も他人の人生も、高望みだらけだ。」
何が悪い。
「何も悪くは無いんだ。ただ、他人の高望みの中に君の存在は入ってなんかいないんだよ。」
……………
「正直言って、本当にどうでも良い存在なんだ。」
「ふん。誰だか知らないがそんな当たり前のことを…」
「いいや、君は全く分かっていないね。いつでも助けて欲しいなんて言っている君には」
……………実際その通りだ。周りの人間は一人で頑張っているんだ。不幸のどん底とやらから抜け出すために。
一体何を不幸に思う人生だ…無い物ねだりか…
「何を君は甘えているんだ。誰にも助けられてなんかいない人間に助けなんか求めて。誰にも甘えさせて貰えない人間なんかに甘えを求めて。そんな人間が君なんか見るとでも思っているのかい?」
あぁ…なんて卑屈なんだ…気味が悪い。
「向上心の欠如だ。」
俺の中はこんな考えで一杯か
「高学歴…金…イケメン…セックス…何もないな。君の人生には」
こんな考えで一杯か…
「全て望んでいるのに。」
これが俺の全てだ。
「否定だらけだ。」
「…………いいさ………仕方無い。皆苦しんでいるんだ。いいさ。救われなくても大丈夫だ。」
「………そんなんでいいのか?」
「あぁ、仕方無い。何も無い人生だ。」
「本当に…………か…………?」
「本当なんだ。俺が救われなくても他人にはどうでも良いんだ。」
「…………………馬鹿な奴め」
「あぁそんなもんだ。皆苦しんでる。お前に構う暇は無い。自分の力で生きてきた。そんなもんだ。そんな考えで一杯だ。俺の中にお前みたいなのがいるように、そんなもんなんだろう。」
「いない奴だっている。」
「幸せ者だ。本当に。だが、俺の中にはいるんだ。俺はこんなもんなんだ。」
「そんなのが本当は許せないんじゃないのか?」
「あぁ許せない。」
「許せないまま死ぬだけの存在か。惨めだ。」
「あぁ。惨めなんだ。だがどうすれば良いかも分からない。」
「屑だ。人間のゴミめ。」
「はぁ…俺はきっとこんな存在で。こんなもんなんだ。」
…暖かい…良い天気だ…目が覚めた。
「おはよう。」
…………日の光を見て、こんなに落ち着いたのはいつぶりだ…………
「おーい。大丈夫か?」
柔らかい毛布……あぁ…気分が本当に悪い。寒気がする。あぁ…何だ…何かが上がってくる。吐き気だ。気持ち悪い。
「目が覚めて早々泣くなよ…」
誰が泣いているん………ウッ…………
「!大丈夫か!どうした!急に吐き出して!ナース!」
死のう。
第10話
待て、そう考えるのは早く無いか…一体何がどうなってこうなっているのか。
待て、現実で足掻くとはどうゆうことだ。あの汚い親父のようになることか?バー経営のジジイババアのようになることか?
待て、現実で奴等は何を考えて生きているんだ?こんなに考える人間はいるのか?
待て、何が俺を死に導こうとしているのか?
奴等を馬鹿だと叫ぶ自分は一体何をしているのか?この思いをどうすれば良いんだ?
緻密さが足りないんだ。ここには。正確さなんて言葉の欠片も無いじゃないか。
考えはするさ…無駄で退屈で馬鹿げたことを。
同じようにはするさ…無駄で退屈で馬鹿げたことの。
俺は次に何をすれば良い。生きる選択肢を取ったとして、次は何をすれば良い。
無駄の集まりで出来上がったこの世界をどんな肩身の狭い思いで生きるんだ。
…………何もかも足りないんだ…………足りないなら満たすことを考えるか……………それも選択肢の一つ………か………
第11話
「あんたは…」
目が覚めたんだ。日の光が邪魔なんだ。
「やっと気付いたか…いきなり吐き出すわ…いきなり気絶するはで…」
「………何で助けた………」
聞きたくは無いさ…
「同情の一つくらいする人もいるもんだ。ただ…ホントにそれだけだよ」
「…………金は…………」
あぁ、一番聞きたく無いさ。俺が一番それを知っているんだ。
「ハァ…………難しいな…返せとも言えないし…」
「何でだ」
知っているさ。金があるようになんて見えるか。
「ハァ…………その、あれだ。その、うーん。俺は見た通り運が無い。工場勤めで、金もなく、女なんかと手を握ったことも無い。まぁなんだ、つまりだ。お前を助けたのは、その………つまりだ!若い奴には頑張って欲しいんだよ!まぁ、そうゆうことだ!」
…運が無い自分を俺に投影したか………こんなこと口が裂けても言えないんだ。
「俺は…その………一旦席を外すよ。煙草を吸いたいから。何かあったら、ナースさんでも呼んどけよ。」
あぁ、俺も吸いたい気分だ。そして、あんな奴にもなりたくないな。
だが、何故あんなに誠実で真面目な奴も救われはしないんだ。運が無いか…つまらない日常が繰り返され…そのままあぁなるんだ…なりたくないものに近づくんだ…
なりたくないなら、あんな奴と違ったことをすれば良い。だが、それをしたところで何かが変わるワケでも無さそうなんだ。
突如襲ってきた怒りと不安と悲しみか…………これら全ては俺を助けたあいつも持っているものなんだ。
…あぁ、知っているさ。自分を助ける為に新しい努力をしなければいけないことくらい。そしてその努力が非常につまらないモノだというくらい。知らないワケ無いさ…
奴等が何を知っているのか。何を考えているのか。何も知らず、何も考えてなんかいないさ。
何かを作ること、知ること、考えることだけが救いの道じゃないさ。
俺が、俺を助けたあいつが救われる為の努力はいつもそこに無かったというだけじゃないか。
今形作られているモノが俺らを救わないなら、そんな形を知り、考え、そして…壊さなければ………きっと救われなんてしないんだ………
つまらない努力だが、この努力をするか死ぬか。こんな選択肢しか思いつきなんてしないんだ…………
さぁ、考え始め無ければ…
さぁ…………さぁ……………さぁ…………
俺にとっては正しく映りもするというだけじゃないか…
救われた奴等はもう何もしなくて良いさ。この考えを分からないと言ってヘラヘラ笑うか、何もしていないクセに気持ちが分かるとか適当なことを言えば良い。
実際俺らもそれを今から目指すんだから。
さぁ始めよう。
こんなところにいつまでも居て良いワケが無いじゃないか。
さぁ