真人間
第1話
暗い場所が好きだ。
正確に言えば薄暗い場所が好きだ。
昔からそうだ。薄暗い場所で目を細めながら本を読む。薄暗い場所でタバコでもふかしながら物思いに耽る。薄暗い場所で…薄暗い場所で……
性格も陰湿だ。汚いものがすきだ。見た目も良く汚いと言われる。身長は世の男の平均くらいはある。
男だが、別に女だけが好きなわけじゃない。
最後の一本を喫い終わった。ジメジメとした空気の籠る廃校の外に出ると見慣れた風景が広がる。蝿のうるさいドブに、下水道の匂いが漂うボロアパート。ションベンでもかけられたのか、強烈なアンモニア臭を放つボロ屋。遠くに見える工場からは黒い煙が町全体を覆うように溢れ出ている。そうだ。誰も気になんかしなくなった。居心地の良い場所だ。それぞれが好き勝手で、それぞれがちゃんとなんかしていない。女物の下着が落ちている。良く見る光景だ。あっちこっちで汚い罵倒と怒鳴り声が響く。良く聞く音だ。非常に満足だ。だが、何故、太陽は引っ込まない。こんな場所でも照らそうとするあいつは一体何を考えているんだ。
廃校から真っ直ぐ行ったところに俺の行きつけのバーがある。随分と廃れたバーだ。店主はババアで頭はパーだ。だが、それが良い。そうだ。このババアに見下されたところで何も思わない。
「あー、いつもの頼みたいんだけど…」
物腰弱そうにいつものを頼む。ババアはあいよとだけ言って、いつものを持ってくる。異臭の放つコップにいつものを注いで飲む。良い味だ。これ程旨い飲み物なんて無い。乱雑に本の置かれた本棚から古い雑誌を適当に持ってきて、不倫特集だかなんだか知りはしないが、嘲笑いながら適当なページを読む。ざまぁみろ、馬鹿な奴だ、いなくなってしまえ。雑誌の汚い話は好物だ。これ程良い話なんてそうそう無い。
「皆が皆他人を見下してるんだ。俺だってそりゃ見下すさ。だが、先に言っておく。俺が最初に見下し始めたんじゃない。周りが俺を見下したから俺もやらざるを得ない状況になったんだ。奴らも満足。俺も満足。」
前言撤回だ。ここには雑誌の汚い話なんかより、もっと楽しい話がある。歳の若い青年だ。しかし、どこか暗い雰囲気をかもしだしている。自分語りをし始める奴は大好きだ。特に若い奴の場合は酷く滑稽に見える。
「見下すと、脳の細胞が死んでゆく?そんなの気にするか。思考能力なんざ、歯の歯垢程に役に立たないもんなんだ。見下して、見下して、見下して。あいつ等だって、きっと俺を見下すさ。何をしたって、どうしたって。」
苦笑しながら聞いていると、店主のババアが無言で酒を勧める。あぁ、あの青年は良いカモだ。あのババア、頭はパーの癖にこういう時ばかりずる賢い。そんな光景がまた滑稽だ。心の中で大爆笑だ。
「悩んでいる様だね。」
青年の隣に座っていた親父が青年に話掛ける。今日は一体全体どうしたというのだろう。非常にラッキーだ。
「分かるよ。俺もそういう時期があった…」
この後の話は良く聞き取れなかった。しかし、内容的に宗教の勧誘だろう。聞いた事も無い宗派の話だ。しかし、あの青年の顔。本当に救われたような顔だった。泣きながらあの親父の話に耳を傾けていた。あぁ!嫉妬してしまう。あの親父に、だ。先に俺が話掛ければ良かった。そうすれば、俺があの青年に感謝されていたのに!説教することも出来て一石二鳥だ!非常に面白くない!奴らの話を爪を噛みながら聞いていた。奴らが帰ってからもだ。上手く行けば、どうなっていた?あの青年、顔は良かった。そうだ。ヤれたかもしれないのに!財布だって上手くいけば盗れた。非常に面白くない。
爪を噛みながら雑誌を読み進める。内容が頭に全く入ってこない。面白くないと三回程非常に小さく呟いた。
第2話
つまらない。楽しくない。
ボロいバーなど、後にしよう。折角いい気分で飲んでいたのに全て台無しだ。にしても楽しくない。金も無いんだ。負け組だ。
あのババア、俺がまだ飲んでる最中なのにテレビなんか付けやがった。
アイドルだかなんだか知らないが、奴らが笑っているのを見ると非常に不愉快だ。そもそも、アイドルなんざ必要無いんだ。アイドル目指して鬱になる人間を知っている。あぁ、良いんだ。あいつらはそれが目的だ。鬱になる人間に手を差し伸べるのがアイドルだ。それが商売だ。こう考えると最高に素敵だ。
ババアのいるバーを横に抜けると、ジジイのいるカフェがある。その店の前で客引きをしている女性と目があった。
嘔吐きそうだ。かなりの美人だ。悲しくなる。肌が真っ白だ。歯が非常に綺麗だ。客引きなんてやるもんじゃない。純粋そうだ。まだ若いんだ。しかし、面白い。アイドルなんかより、彼女とヤった方が元気が出るさ。アイドルの何倍も天使だ。彼女と目があった。それだけでも元気が出るさ。何故かって?アイドルが彼女よりも何倍も劣るからだ。アイドルを見下せる。良い心地だ。
「君、可愛いね。いくら?」
あぁ、俺と同じくらい不潔な親父だ。だが、金はあるらしい。少し話してお持ち帰りだ。結局は金だ。また、面白くない。俺に金があれば、ヤれたんだ。だが、一万もない。つまらない。楽しくない。強姦すれば、タダだ。そんな勇気あるわけない。
あぁ!アイドルの方がまだあの女よりマシだ!何でこう思えるかは分からない。ただ、あの女よりマシに見えるんだ!
いや、どちらもどちらだ。きっとアイドルだって客引きを嘲笑ってるさ。見下してるさ。
客引きだって、アイドルを嘲笑ってるさ。見下してるさ。
俺と同類だ。満足だ。非常に楽しい…非常に素敵だ…そうだ。良い考えだ…
チリンと良い音がなる。ジジイのいるカフェの店内は案外綺麗だ。コーヒーの良い香りもする。二千円ならある。腹が減った。何か頼もう。
第3話
案外綺麗な店内だ。だが、ソファは黄色く黄ばんでいるし、ボロボロだ。テーブルの上に食いカスが乗ってたりする。だが、俺がここを好む理由はそこじゃない。ジジイの顔のことだ。あのジジイに見下されても気になんかしない。それくらいに酷いんだ。
しかし、面白くない。飯代、コーヒー代を抜けば残り1000円だ。だが、食わなければ死ぬんだ。コーヒーは一回頼めば好きなだけ飲める。時間でも潰そう。そうだ。それが良い。この時間帯にこんな店だ。客なんかそうそう来やしないさ。
前言撤回だ。チリンと音がなった。誰か来やがった。若い二人組だ。ヒョロイの二人だ。俺の後ろの席に座った。もっと他に席なんざあるのに。
「ハムサンドとコーヒー」
一番安いのを頼みやがった。金が無いのか。可哀想な奴め!
「お前、それしか食わねぇの?あ、カツ定食。あと、コーヒー」
片方はそこそこの値段のもの頼みやがったか。
「それでさー…」
片方は良く喋る奴だ。しかもちょくちょく片方を馬鹿にしながら話す。きっと社会的地位が上なんだ。
話してる内容は全く面白くない。単なる色恋沙汰だ。
◯◯は処女でそれを俺が奪ってほにゃららら。なんて話だ。面白くない。
「ま、お前みたいなゴミには全く関係ない話だがな。」
「そ、そうだね…」
暗い場所が好きだ。
正確に言えば薄暗い場所が好きだ。
昔からそうだ。薄暗い場所で目を細めながら本を読む。薄暗い場所でタバコでもふかしながら物思いに耽る。薄暗い場所で…薄暗い場所で……
性格も陰湿だ。汚いものがすきだ。見た目も良く汚いと言われる。身長は世の男の平均くらいはある。
男だが、別に女だけが好きなわけじゃない。
最後の一本を喫い終わった。ジメジメとした空気の籠る廃校の外に出ると見慣れた風景が広がる。蝿のうるさいドブに、下水道の匂いが漂うボロアパート。ションベンでもかけられたのか、強烈なアンモニア臭を放つボロ屋。遠くに見える工場からは黒い煙が町全体を覆うように溢れ出ている。そうだ。誰も気になんかしなくなった。居心地の良い場所だ。それぞれが好き勝手で、それぞれがちゃんとなんかしていない。女物の下着が落ちている。良く見る光景だ。あっちこっちで汚い罵倒と怒鳴り声が響く。良く聞く音だ。非常に満足だ。だが、何故、太陽は引っ込まない。こんな場所でも照らそうとするあいつは一体何を考えているんだ。
廃校から真っ直ぐ行ったところに俺の行きつけのバーがある。随分と廃れたバーだ。店主はババアで頭はパーだ。だが、それが良い。そうだ。このババアに見下されたところで何も思わない。
「あー、いつもの頼みたいんだけど…」
物腰弱そうにいつものを頼む。ババアはあいよとだけ言って、いつものを持ってくる。異臭の放つコップにいつものを注いで飲む。良い味だ。これ程旨い飲み物なんて無い。乱雑に本の置かれた本棚から古い雑誌を適当に持ってきて、不倫特集だかなんだか知りはしないが、嘲笑いながら適当なページを読む。ざまぁみろ、馬鹿な奴だ、いなくなってしまえ。雑誌の汚い話は好物だ。これ程良い話なんてそうそう無い。
「皆が皆他人を見下してるんだ。俺だってそりゃ見下すさ。だが、先に言っておく。俺が最初に見下し始めたんじゃない。周りが俺を見下したから俺もやらざるを得ない状況になったんだ。奴らも満足。俺も満足。」
前言撤回だ。ここには雑誌の汚い話なんかより、もっと楽しい話がある。歳の若い青年だ。しかし、どこか暗い雰囲気をかもしだしている。自分語りをし始める奴は大好きだ。特に若い奴の場合は酷く滑稽に見える。
「見下すと、脳の細胞が死んでゆく?そんなの気にするか。思考能力なんざ、歯の歯垢程に役に立たないもんなんだ。見下して、見下して、見下して。あいつ等だって、きっと俺を見下すさ。何をしたって、どうしたって。」
苦笑しながら聞いていると、店主のババアが無言で酒を勧める。あぁ、あの青年は良いカモだ。あのババア、頭はパーの癖にこういう時ばかりずる賢い。そんな光景がまた滑稽だ。心の中で大爆笑だ。
「悩んでいる様だね。」
青年の隣に座っていた親父が青年に話掛ける。今日は一体全体どうしたというのだろう。非常にラッキーだ。
「分かるよ。俺もそういう時期があった…」
この後の話は良く聞き取れなかった。しかし、内容的に宗教の勧誘だろう。聞いた事も無い宗派の話だ。しかし、あの青年の顔。本当に救われたような顔だった。泣きながらあの親父の話に耳を傾けていた。あぁ!嫉妬してしまう。あの親父に、だ。先に俺が話掛ければ良かった。そうすれば、俺があの青年に感謝されていたのに!説教することも出来て一石二鳥だ!非常に面白くない!奴らの話を爪を噛みながら聞いていた。奴らが帰ってからもだ。上手く行けば、どうなっていた?あの青年、顔は良かった。そうだ。ヤれたかもしれないのに!財布だって上手くいけば盗れた。非常に面白くない。
爪を噛みながら雑誌を読み進める。内容が頭に全く入ってこない。面白くないと三回程非常に小さく呟いた。
第2話
つまらない。楽しくない。
ボロいバーなど、後にしよう。折角いい気分で飲んでいたのに全て台無しだ。にしても楽しくない。金も無いんだ。負け組だ。
あのババア、俺がまだ飲んでる最中なのにテレビなんか付けやがった。
アイドルだかなんだか知らないが、奴らが笑っているのを見ると非常に不愉快だ。そもそも、アイドルなんざ必要無いんだ。アイドル目指して鬱になる人間を知っている。あぁ、良いんだ。あいつらはそれが目的だ。鬱になる人間に手を差し伸べるのがアイドルだ。それが商売だ。こう考えると最高に素敵だ。
ババアのいるバーを横に抜けると、ジジイのいるカフェがある。その店の前で客引きをしている女性と目があった。
嘔吐きそうだ。かなりの美人だ。悲しくなる。肌が真っ白だ。歯が非常に綺麗だ。客引きなんてやるもんじゃない。純粋そうだ。まだ若いんだ。しかし、面白い。アイドルなんかより、彼女とヤった方が元気が出るさ。アイドルの何倍も天使だ。彼女と目があった。それだけでも元気が出るさ。何故かって?アイドルが彼女よりも何倍も劣るからだ。アイドルを見下せる。良い心地だ。
「君、可愛いね。いくら?」
あぁ、俺と同じくらい不潔な親父だ。だが、金はあるらしい。少し話してお持ち帰りだ。結局は金だ。また、面白くない。俺に金があれば、ヤれたんだ。だが、一万もない。つまらない。楽しくない。強姦すれば、タダだ。そんな勇気あるわけない。
あぁ!アイドルの方がまだあの女よりマシだ!何でこう思えるかは分からない。ただ、あの女よりマシに見えるんだ!
いや、どちらもどちらだ。きっとアイドルだって客引きを嘲笑ってるさ。見下してるさ。
客引きだって、アイドルを嘲笑ってるさ。見下してるさ。
俺と同類だ。満足だ。非常に楽しい…非常に素敵だ…そうだ。良い考えだ…
チリンと良い音がなる。ジジイのいるカフェの店内は案外綺麗だ。コーヒーの良い香りもする。二千円ならある。腹が減った。何か頼もう。
第3話
案外綺麗な店内だ。だが、ソファは黄色く黄ばんでいるし、ボロボロだ。テーブルの上に食いカスが乗ってたりする。だが、俺がここを好む理由はそこじゃない。ジジイの顔のことだ。あのジジイに見下されても気になんかしない。それくらいに酷いんだ。
しかし、面白くない。飯代、コーヒー代を抜けば残り1000円だ。だが、食わなければ死ぬんだ。コーヒーは一回頼めば好きなだけ飲める。時間でも潰そう。そうだ。それが良い。この時間帯にこんな店だ。客なんかそうそう来やしないさ。
前言撤回だ。チリンと音がなった。誰か来やがった。若い二人組だ。ヒョロイの二人だ。俺の後ろの席に座った。もっと他に席なんざあるのに。
「ハムサンドとコーヒー」
一番安いのを頼みやがった。金が無いのか。可哀想な奴め!
「お前、それしか食わねぇの?あ、カツ定食。あと、コーヒー」
片方はそこそこの値段のもの頼みやがったか。
「それでさー…」
片方は良く喋る奴だ。しかもちょくちょく片方を馬鹿にしながら話す。きっと社会的地位が上なんだ。
話してる内容は全く面白くない。単なる色恋沙汰だ。
◯◯は処女でそれを俺が奪ってほにゃららら。なんて話だ。面白くない。
「ま、お前みたいなゴミには全く関係ない話だがな。」
「そ、そうだね…」